視点 オピニオン21
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元群馬高専非常勤講師 細井 千代吉さん(伊勢崎市末広町)

【略歴】群大学芸学部(現・教育学部)卒。小学校、高校で理科教師を務め、病気療養中の子どもが学ぶ県立東毛養護学校前橋分校で指導し、定年退職。2002年3月まで群馬高専非常勤講師。

動物の意外な一面



◎飼育係交代で恋を成就

 上野動物園で、望遠レンズを使ってゴリラの顔を撮ろうとして、ファインダー内で彼に睨(にら)まれたときは背筋が寒くなる思いをしたものです。多分、睨んだのではなく、単に視線が合っただけなのに、恐ろしさを感じさせるゴリラは、人間にも劣らぬほど繊細な神経の持ち主なのです。子育てを知らない親から生まれた赤ちゃんゴリラを、自分の家で育て上げた飼育係の方から聞いた話を紹介します。

 育ての親はボスの立場になりますから、何事においても絶対服従であったことや、大人になってからも夕方帰宅しようとすると寂しがるので、一緒に寝てあげることもあったそうです。また、一緒に飼育されている雌ゴリラに対して恋心が芽生えたのに、ボスである育ての親が同じ雄(男性)なので遠慮していた様子が見えたとのこと。そこで、飼育係を交代することによって恋を成就させたという話には感動させられました。ゴリラが神経質であることも知りませんでした。工事のための大きな音や太鼓の音などにも驚いて、強烈な臭いの下痢をするので、飼育担当者は便の臭いを確かめることも大切な仕事のようです。

 ウサギは可愛(かわい)い動物です。以前はネズミやリスなどと一緒に齧歯(げっし)目に属していましたが、その特徴である門歯のうち上顎(あご)に小形に退化した一対の門歯が余分にあることにより、ウサギ目として区別されました。しかし、鑿(のみ)のような鋭い門歯は齧(かじ)ることに適していることに変わりありません。この門歯は終生伸び続けるので、固いものを齧って磨り減らす必要があります。

 ウサギの奇妙な習性に食糞(ふん)があります。私たちが目にする普通の糞とは別に、ねばねばした膜に包まれた糞(粘膜便)を夜間に排出します。排出された粘膜便を、肛門に口を近づけて噛(か)まずに飲み込むのです。ウサギの盲腸は大きく発達していて消化作用をしていますが、その内容物は盲腸から吸収作用のない大腸を通過して体外へ出されることになります。その糞が粘膜便で、栄養を多量に含んでいるのです。粘膜便を食べられないようにしておくと、三カ月ぐらいで死んでしまうそうです。家畜のウサギはアナウサギを改良したものですから、穴を掘って逃げ出すこともあるので、飼育に当たっては留意した方がいいでしょう。蛇足ですが、亀毛兎角(きもうとかく)とはこの世にあり得ないもののたとえであって、兎角とも言います。

 ブタは紀元前八千年ごろ、イノシシ(猪)を家畜化したものだそうです。軟骨でできている鼻は円盤状で、力が強いから地を掘るのに適しています。出産は一度に数匹から十数匹(二十二匹という記録もある)。このときは、飼い主が介添えしてあげないと子ブタが母ブタの下敷きになってしまうこともあります。子ブタが吸いつく乳首は決まってしまい、交換することはできません。

 乳房によって乳汁の出方が違うので、子ブタの発育に差が生じてしまいます。私の経験では、ゆでたサツマイモをつぶして補って育てたことがありました。もし、乳首に余裕のある母ブタがいたら、その母ブタの尿を発育の良くない子ブタにかけて擦り込んでやると、自分の子として授乳してくれます。なお、ブタは汚いところでも平気だと思っている方もいるかも知れませんが、ブタ自信は汚いところを好んでいるわけではありません。このごろではミニブタをペットとして室内で飼育している方もおられるようです。近年、ほとんど聞くことがなくなりましたが、自分の子を謙遜(けんそん)して言う豚児・豚犬という語がありました。

(上毛新聞 2003年9月28日掲載)