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県高齢者生活協同組合専務理事 大塚 肇さん(前橋市広瀬町)

【略歴】中央大法学部卒。医療事務会社社長、県高齢者生活協同組合設立準備会事務局長を経て2001年、組合設立と同時に専務理事に。日本労働者協同組合連合会センター事業団群馬事業所長も務める。

協同労働



◎就労創出の効果が高い

 自殺者が五年連続で三万人を突破しました。一日に八十人を超える人々が自ら命を絶つ事態は異常です。特に「経済・生活問題」を動機とする自殺が増えていて不況やリストラの影響がうかがわれます。これに対し、公や企業の対策はうつ病にかかる弱い個人の問題に帰する観があります。そうではなく、競争に負けた者に再就職訓練・起業など敗者復活の機会を用意したり、ストレスをつくる職場環境を改善するなど重大な社会問題として取り組むべきです。

 また、いわゆる団塊の世代が定年を迎えつつあり超高齢社会が間近です。定年後の生活への不安や社会貢献目的から就労を希望する方が少なくありません。しかし、従来の企業の雇用システムでは高齢者就労への十分な対応が困難です。

 さらに、若者を中心に、働き方の多様化・個別化が一層進んでいます。正社員が減りパートや派遣社員が増加しています。「フリーター」は自由な生き方として美化されることがありますが、魅力を感じない労働条件に正式な就労をためらっているのが本音ともいえ、若者の就職難・失業率が高まっています。

 ところで、働く場がないとされながら、他方で、社会が必要としている仕事が放置されています。安全な食、環境、福祉などの仕事です。人の命と健康にかかわり地域社会にとって意義があっても採算が合わなければ営利企業は取り組みません。地域で企業が雇用してくれなければ働く場がありません。かといってNPOでは必ずしも生活を支える就労に結びつきません。

 もっとも、だれかに雇われるのを待たず、自営業をすることもできます。でも、ノウハウや資金の調達がうまくいくか心配です。

 では、働く場を個人ではなく協同でつくり出すというのはどうでしょうか。営利ではなく社会貢献を目的とした協同組合の方式なら多くの人から出資を集めることができます。みんなが主人公となって知恵もノウハウも出し合い経営も労働も協同でします。これは、雇用労働・自営業に続く「協同労働」という新しい働き方です。就労創出効果が高く、労働者協同組合(ワーカーズ・コープ)が中心となって広げています。特に地域で小規模な福祉事業などのコミュニティービジネスを住民が主体的に立ち上げるのに最も適した起業方式です。ところが、日本では法の不備が課題とされており、この「協同労働」による「仕事おこし」を法制度・政策面で総合的に推進する仕組みが用意されるべきです。

 今、働き方が多様化しているといわれますが、何のために働くのかを真剣に問う若者も増えています。高齢者・女性の多くは生活に身近な地域に働く場を求めています。会社のためだけでなく人や地域のために働くことを選び直す労働者に共感が広がっています。

 人々の働き方が変われば、生活の豊かさのイメージが変わり、日本の社会経済の在り方まで大きく変わります。その意味で、「協同労働」による「仕事おこし」は、単に消極的に失業を救済する受け皿になるだけでなく、より積極的に新しい社会的価値を創出する契機になるのではないでしょうか。

(上毛新聞 2003年9月30日掲載)