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おおままおもちゃ図書館「もみの木」代表 渡辺 紀子さん(大間々町桐原)

【略歴】前橋文化服装学院(現・前橋文化服装専門学校)卒。洋裁教室を開く。大間々町の小中学校で特殊学級と図書館司書の補助員を9年間務める。1992年に「おおままおもちゃ図書館もみの木」を開設。

福祉の心



◎自立めざす拠点として

 キバナコスモスとヒマワリの花が、夏の陽(ひ)に向かって咲き競う住宅街の一画に「大間々町障害者自立支援施設」が開所の日を迎えました。両親が残された土地、そして、多くの人に編み物、手芸、大正琴などを指導し、焼き物も手掛けられ、ボランティア活動にも情熱を注がれた母親の思い出あふれる家を、町の福祉のために寄贈された吉田一浩さん夫婦と尾池広美さんに感謝状が贈られました。「父と母の名で感謝状をいただきたかったです…」。一浩さんの挨拶(あいさつ)に、私の胸はいっぱいになりました。

 吉田フキ先生が夢見ていた多くのことがこれからというときに、帰らぬ人となってしまわれ、先生はどんなに悔しく、心残りだったでしょう。

 母親思い、福祉の心をしっかりと受け止め、夫妻で、兄妹で話し合われて、生まれ育った家の思い出も一緒に、ハンディをもった人たちのために申し出てくださったのです。きれいに住まわれていた広い家。町で使い勝手の良いように、トイレや段差などを改修してくださいましたが、先生のお元気だったときのままに、家具までも使わせていただくことになりました。ひいらぎの会も業務用のガスオーブンを購入し、町で備えてくださったのと二台でケーキ、クッキーづくりが始められます。

 ハンディを持った人たちが、自立を目指して活動する拠点としてスタートした八月十一日、中庭のキョウチクトウが風に揺れていました。「母が好きだった花です。切らずに置いてください」。一浩さんの奥さまと広美さんのお話に、母親への深い愛を感じました。「ここで先生と大正琴を弾いたのよね…」。お弟子さんの懐かしそうな横顔に、先生の人となりが感じられました。ひいらぎの会の久人君と千恵子さんを中心に、子どもたちや母親、ボランティアが使わせていただく家ですが、玄関を入ると、中庭まで広々と見渡せ、南向きの大きなガラス戸越しに明るい日差しが差し込んで、心が和みます。訪れるたびに、フキ先生夫妻と遺族の方への感謝の気持ちが深くなります。

 八月末から週三回、ひいらぎの会の活動がスタートしました。これまでの活動を見直し、「自立」の意味を考えながら、社会人として地域で生きるための訓練も含めて、いろいろなことにチャレンジしていこう、と話し合いました。活動の場を地域の中に与えていただけたのだから、ここから障害を個性として認めてもらうため、地域の人とのコミュニケーションを計ることにしました。すでに、近くの方には声をかけていただいたり、開所式にも参列していただいています。小さなサロンにフキ先生の遺作展示コーナーと、地区の子どもたちにも足を向けてもらえたらと絵本のコーナーも作りました。ひいらぎの会の作品コーナーもあります。

 フキ先生も、にぎやかな笑い声が集うことをきっと喜んでくださると思います。世界中で戦火や天災、日本でも人間の行いだとは信じられない残虐な事件が発生し、世の中から大切なものが失われている時代だからこそ、小さな触れ合い、温かい触れ合いをこの家から発信したいと思います。

(上毛新聞 2003年10月5日掲載)