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東京医科大学病院集中治療室長 小澤 拓郎さん(東京都港区高輪)

【略歴】前橋高、東京医科大学卒。同大学院修士課程修了。同大学付属霞ヶ浦病院、同大学八王子医療センター麻酔科助手を経て、2001年4月から現職。

飲み屋談議



◎年取っても厳しい時代

 とある秋の夕暮れ、下町の一杯飲み屋で…。

 熊「よおっ、八っつぁん久しぶり。浮かねえ顔をしてっけどなんかあったんかい?」

 八「それがよ、厚生労働省っていう所の発表によると、なんでも男の平均寿命が七八・三歳、女が八五・二歳になった、ってんだよ」

 熊「そりゃ随分とおめでてえ話じゃねえか。するってえと俺(おれ)たちはあと三十六年も生きられるってことかい。だったらもっとうれしそうにしたらどうだい」

 八「それがなあ、そのころには六五歳以上の年寄りの割合が今の約二倍に増え、約一千百万人以上も増えるらしいんだよ」

 熊「ふーん、そりゃぁ仲間が多い方が賑(にぎ)やかで楽しそうじゃねえか」

 八「お前はお気楽でうらやましいよ。年寄りの割合が増えるってことは若い衆が少なくなるってことよ。出生率も年々減少しているしな…」

 熊「ふーん、そりゃあちょっと寂しいなあ」

 八「寂しいだけじゃすまねえらしいぜ。若い衆が減るってことは健康保険も年金も掛け金が集まらなくなる、ってことだぜ」

 熊「それが一体どうかすんのかい?」

 八「日本の医療保険は“国民皆保険”っていってな、アメリカもまねできなかった相互幇(ほう)助制度でさ、まあ平たく言えば若い元気な者が金を払ってな、それを病気がちな者やご隠居さんたちが使わしてもらうしくみなんだよ。それが若い衆が減ってご隠居さんばかりになってみな、どうなると思う?」

 熊「そりゃあ金が足んなくなるだろうよ」

 八「その通り! 実際に老人医療費は年々増え続けて三年前から公費も投入されてんだってさ。それでも破綻(たん)寸前らしくてさ、去年の秋から負担割合を増やしたり、老人医療受給も七五歳以上に引き上げたんだとよ。俺たちの負担割合も今年の四月から三割に増えてんだぜ」

 熊「そういえばこの間、夏風邪ひいて医者にかかったら前よりも高かったなあ。裏のご隠居さんも病院への通院代が上がって年金だけじゃやっていけねえ、って嘆いてたっけ」

 八「年金といえば俺たちは受給開始が引き上げられて六五歳からだって知ってるかい? それだって今払えねえ奴(やつ)が四割もいるっていうから、どうなるかわかんねえぜ。まあ、絵に描いた餅(もち)で、そう簡単には楽隠居させてくれねえみたいだな」

 熊「ふぅ〜。なんだか酒がまずくなってきたぜ。今日はこの辺でおしまいにしておくか」

 八「ずばりお上の狙いはそこよ! 酒やたばこは体に悪い。健康食品を食べましょう、っていうことで今年五月に健康増進法が制定されたんだとさ」

 熊「なるほど、とどのつまり医者要らずの、元気で働ける年寄りを増やそうって魂胆か」

 八「そういうことよ。人の世話にはならず、自分の面倒は自分でみましょう、だな。厳しい時代に年取ってきちまったな。お互い…」

 皆さん、今からでも健康に留意しましょう。

(上毛新聞 2003年10月11日掲載)