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エフエム太郎代表取締役社長 岩田 博之さん(太田市西本町)

【略歴】太田市生まれ。関東短大卒。1959年、同市職員となり、企画、都市開発部長などを歴任。99年6月からエフエム太郎常務放送局長、今年4月から現職。ブロードバンドシティ太田社長、日本コミュニティ放送協会理事も務める。

デジタル放送



◎存在価値が問われる

 いま放送メディアは、デジタル化により相当大きな変革期を迎えようとしています。地上波を使ったデジタルラジオ放送の実用化試験が、この十月十日から東京圏と大阪圏で開始され、この日が、エフエム太郎開局五周年に当たったのも何かの縁と思います。テレビの地上波デジタル放送は、今年の末から東京、大阪、名古屋地区で、それ以外の地域でも二〇〇六年から始まりますが、電通の調査によると、40%の方がまったく知らないと回答しており、認知度の低さに不安な面もあります。デジタル化は、携帯電話などの急速な普及で電波の逼迫(ひっぱく)状況の中、狭い帯域で映像や音声を効率的に伝送でき、パソコンなどのデータ交換も便利で、世界的な潮流にもなっています。

 ラジオ放送は、安価な受信機で移動受信や携帯受信にも適していることから、若い世代から高齢者まで幅広く親しまれており、災害に強いメディアとして、多方面から信頼と期待を寄せられています。デジタル化は、こうしたラジオ放送の特性を生かしたうえ、さらに、高品質な音声放送に加えて、簡易動画を含むデータ放送が提供できることから、安定した携帯受信および移動受信が可能なことなどが挙げられます。

 コミュニティー放送は、パワーは小さいがその分だけエリアに合わせて自由にできます。この利点を生かし、地域に密着した祭り、行事や商店街の売り出しなどの地域情報や映像等のデータを一緒に送ることができ、そこに新たなビジネスチャンスが生まれ、新たに開拓できる面が広がるものと期待を持っています。

 しかしながら、小規模のコミュニティー放送は景気低迷で苦戦が続く中、多額の設備投資が必要で、しかもデジタル放送の特性を生かしたコンテンツ(情報の中身)をどうすれば提供できるか、非常に厳しい状況にあります。さらに、県域放送も地域性を進める中、コミュニティー放送の優位性である地域に密着という特性が見えにくくなり、加えて、インターネット・携帯電話など放送と通信の融合が一段と加速する状況下で、デジタル化というテクノロジーの中、サービスのありようが問われてくるものと思います。

 コミュニティー放送は、しばらくの間、アナログの放送を存続したうえで新規のサービスになると思いますが、ラジオ全体、そして、県域放送がデジタル化にシフトしていったとき、受信機や具体的なサービスコンテンツを含めいろいろな意味で取り残される危険性があります。コミュニティー放送は自由自在な展開ができ、そのパワーがあるか。今後、デジタル化によりますます多様化し、将来どうなるか見えにくい中で、コミュニティー放送自体が、自己を評価、点検し、これからの将来図をどう考え、モデル像をどう提示できるか。将来の存在価値が大きく問われています。この荒波は、コミュニティー放送に限らず放送メディア全体が大変な努力を要することではないでしょうか。

(上毛新聞 2003年10月17日掲載)