視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
前橋市市長公室交通政策課課長 鈴木 和明さん(前橋市勝沢町)

【略歴】前橋商高卒。1971年、前橋市に入職。同年、水道局総務課に配属され、90年に前橋市都市整備振興公社へ出向。95年から交通対策課、工業課などを経て、今年四月から現職。

市町村合併



◎選択を迫られる自治体

 自己の健康管理を目的として、十年ぐらい前から県内を中心に日帰りできる山を選び、山登りをしていますが、昨年の秋、新潟県と長野県境に位置する標高二、一四五メートルの苗場山に登りました。ルートは、登山口から約三時間で登れる長野県側を選択しましたが、この登山口となっている栄村は今年の二月、北海道ニセコ町、福島県矢祭町、群馬県上野村、福岡県大木町とともに呼びかけ人となり「小さくても輝く自治体フォーラム」を開催した自治体として報道され、全国から注目された村です。栄村のホームページにはフォーラム開催の趣旨のほか、栄村が新潟県との県境にあり、合併しても過疎化は改善されず、また住民サービスがさらに低下するなどの理由により、自助努力と住民相互の協力のもとに合併せず自立した「村づくり」を進めていきたいという姿勢がうかがえます。

 栄村役場から苗場山の登山口となっている秋山地区までの距離は約三十キロ、さらに新潟県側の国道を利用しなければ通うことができないなどのほか、豪雪地帯として非常に厳しい現実を想像することができます。

 また、同じ呼びかけ人となっている福島県矢祭町は、いち早くどこの自治体とも合併をしない宣言をしたことで有名ですが、ホームページには地方自治法に基づき自己責任による自立を前提とした「町づくり」に臨み、今後予想される財源不足は職員数の減や公共事業の抑制などの自助努力のほか、住民の協力を前提とし、国へは引き続き交付金などの支援を念頭においていることがうかがえます。

 今、全国の多くの自治体では、今後予想される少子高齢化社会への対応や地方分権の推進のため、合併協議会を設置し合併について協議しています。合併の目的やメリット、デメリットなどは国や県のほか、前橋市のホームページにも掲載されています。

 私が住んでいる芳賀地区(旧芳賀村)は、昭和二十九年四月に前橋市と合併しました。

 芳賀村誌には合併に至った経過(小林二郎村長の式辞)が掲載されていますが、この中で、「自治体の強化を図り、住民の福祉を増進することを目的として合併する」とし、合併先は前橋市、富士見村、大胡町の中から住民投票と世論調査をかねた方法により前橋市に決定したとあります。

 平成十六年は芳賀村が前橋市と合併してから五十年という節目の年になりますが、この年、前橋市は新たに大胡町、宮城村、粕川村と合併し、新しい前橋市が誕生する予定です。

 前橋市の芳賀地区は、合併してから五十年が経過する中で、芳賀工業団地や住宅団地の造成と分譲、嶺公園の整備などにより着実に発展していると思います。特に公共交通としての路線バス「小坂子線」は、これらの団地を経由することから県内でもまれな黒字路線となっており、このことは合併による効果であると考えています。

 今後予想される高齢社会や国からの交付金の減額が想定される中、合併について全国の自治体では大変厳しい選択を迫られていますが、五十年前、前橋市との合併を決断した芳賀村長と村議会、住民投票で前橋市を選択した人たちを、私は誇りに思っています。

(上毛新聞 2003年10月21日掲載)