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県高齢者生活協同組合専務理事 大塚 肇さん(前橋市広瀬町)

【略歴】中央大法学部卒。医療事務会社社長、県高齢者生活協同組合設立準備会事務局長を経て2001年、組合設立と同時に専務理事に。日本労働者協同組合連合会センター事業団群馬事業所長も務める。

ホームヘルパー



◎養成講座に参加しよう

 だれもが年をとり、やがて高齢者となります。その時、自立した生活ができなくなり他人の世話になることは避けたいものです。高齢者にとって「福祉」は、従来、してもらうという「受け身」のイメージでとらえられてきました。

 しかし、たとえ月に一回細切れの時間であってもヘルパーになって働くなど、福祉に積極的に参加する高齢者もいます。働くことで収入になり、体を動かして健康に役立ち、人に喜ばれて生きがいを感じるという点で、ヘルパーで働くことは元気な高齢者をより元気にします。また、同時代を生き抜いた高齢者だからこそできる精神的なケアもあり、ある意味で高齢者は優れたケアワーカーです。高齢者にとって福祉のイメージが、「受け身」の福祉から「参加する」福祉へと変わり始めています。

 介護や世話を意味する「ケア」のイメージも変わってきました。従来の「施設ケア」や「在宅ケア」は、専門職だけによるケアであり、どちらも施設や在宅に高齢者を閉じこめてしまうきらいがありました。これに対し、高齢者を外に引っ張り出し、住み慣れた地域の宅老所やデイサービスに通わせて専門職と近隣住民が協働でケアをする「コミュニティーケア」が注目されています。それは高齢者の人生の継続性を尊重し地域社会の人間関係がもつ治癒力を重視したケアです。また、コミュニティーケアの拠点になる宅老所やデイサービス施設は、郊外の大きな施設である特養と異なり、街中で民家を改造するので低コストで小規模多機能なものになり、家庭的な温かい雰囲気を大事にすることができます。

 ところで、コミュニティーケアが成り立つには、地域住民のボランティア活動が必要です。その「ボランティア」のイメージも変わってきました。従来は、社会的弱者や恵まれない人のためにお金や時間に余裕があって献身的に活動できる「特別な人がする活動」でした。現在は、相互に支え合ったり社会参加や共感を重視して仕事や家事の合間に気軽に活動できる「普通の人がする活動」になってきました。人々の意識の中でボランティアの裾(すそ)野が広がり、活動に参加する機会が増えているのです。

 ところが、日本では、ボランティアを始めようとするときに「動機の純粋性」というハードルがあるように思います。入り口で強い正義感や自主性や無償性を厳格に求めているのです。例えば、他人に強く勧められ渋々始めたり、社会的なイメージアップを意図して始めるのは不純とされます。しかし、福祉ボランティアは実際に体験してみて初めてその人間的な深い意味がわかります。いわばボランティアの活動をして人間教育を受け、動機が純粋になっていくともいえます。ボランティアへの間口を大きく広げるべきです。

 もっとも、福祉は人の命・健康・自尊心に深くかかわります。要介護高齢者の安全に対する配慮や共感的理解が必要です。そのため、事前に最低の学習は必要です。福祉の基本を学ぶなら、ホームヘルパー養成講座の受講が最適です。それは専門職・ボランティアになるためでなく、自分が介護の受け手になった時にサービスの質を評価するためにも有効です。

 講座を受ける人が増え、地域で福祉活動を始めると、地域で相互に支え合い、共感し合う人間関係がつくられます。それが契機となって環境や教育など地域の問題を住民が主体的かつ協同で解決するようになれば、地域コミュニティーが再生されます。

 初めの一歩が大切です。「全市民総ヘルパー」を合言葉に、ホームヘルパー養成講座の受講を推進する国民的運動を提唱したいと思います。

(上毛新聞 2003年10月23日掲載)