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都市計画コンサルタント 横手 典子さん(東京都渋谷区代々木)

【略歴】前橋女高、明治大学工学部建築学科卒、同大学大学院工学研究科修士課程修了。千年広場の会会員。

「聞く」と「聴く」



◎耳傾けたい話し手の心

 人の話を聞く、という作業はなかなか大変なものである。

 しかし「聞き上手は話し上手」との言葉がある通り、コミュニケーションの基本は、まず「聞く」ことにある。

 少年犯罪に関する話題を含め、あらゆる分野でコミュニケーションの重要性が指摘されている昨今、のうのうとサラリーマン生活を送っている私にとっても、日々のクライアントとのやりとりや上司との意見調整等、「人の話を聞く」ということは、苦手だが避けては通れない課題となっている。

 先日も社内で「コミュニケーション下手で」などと雑談していたところ、カウンセラーの資格を持つ先輩から「聞く」と「聴く」では意味が違う、という話を聞いた。

 先輩によると、「聞く」は相手の話している「話題」に着目してきくことを言うのだという。一方「聴く」は、話された話題ではなく「話している本人」に焦点を当ててきくことを意味する。そして人の話を聞く際に重要なのは、「聞く」ではなく「聴く」ことにある、というのだ。

 ここに「聞く」と「聴く」の違いを示す一つのエピソードがある。ある姉弟が電車に乗っていた。小学生の弟は、下を向いて何か考え込んでいる。しばらく押し黙っていた弟だが、突然顔を上げて姉に話しかけた。「あのさ。2+2は4だよね。3+1も4だよね。2+2の4と、3+1の4って、何か違うの?」

 あなたが姉の立場なら、何と答えるだろうか。「4という数字の意味からすると」とか「4は4で同じでしょ」といった返答が思い浮かぶのではなかろうか。

 ところがこのお姉さん、「学校で何かあったの?」と答えたという。そして弟はせきを切ったように、その日学校であった出来事を話し出した。

 お分かりだろうか。これが「聞く」と「聴く」の違いである。

 お姉さんは、弟が言った「2+2云々(うんぬん)」つまり話題を「聞いて」答えたのではない。弟の様子を見て「この子がこんなことを言い出すなんておかしい」と本人の気持ちを「聴いて」答えたのである。そしてその結果、弟は、自分の話したかった本当のことを姉に打ち明けることができた。

 もし姉に「2+2の答えの意味は」と真っ向から答えられていたら、彼は本当に言いたかった学校での出来事など言い出せず、胸にしまい込んでしまったことだろう。

 ふとわが身を省みてみるに、何と「聴く」機会の少ないことかと思う。聴いたつもりになって相手を理解した気になってしまうことの、なんと多いことか。話題にただ答えるというのは、実は相手の話に耳を傾けているのではなく、自分の意見を一方的に述べているに過ぎないのだ。

 言われたことそのままに答えるのではなく、「この人はなぜそんなことを言っているのだろう」と話し手本人の気持ちに思いを巡らせ「聴いて」みる。すると日々の生活の中に、これまでと違った展開や関係性が見いだせるのかもしれない、と思う今日このごろである。

(上毛新聞 2003年10月28日掲載)