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にいはる自然学校ディレクター 鷲田 晋さん(新治村羽場)

【略歴】愛知県生まれ。立命館大学産業社会学部卒。民間教育研修会社に12年間勤めた後、1999年、上野村にIターンし、観光業に従事。3月に新治村に移住、4月から現職。

キャンプ



◎子どもの生活力向上も

 今年の夏のキャンプには県内外から百人以上の子が参加し、延べ八百泊していった。私が担当したキャンプに「いつ来てもいつ帰ってもいいキャンプ(通称いついつ)」がある。このキャンプは子どもたちが毎晩、次の日にすることを作戦会議で話し合って、自主的に決めるというスタイルを取っている。

 このキャンプで私たちが子どもに与えているものは「時間」と「空間(居場所)」である。都会の子どもたちは予想以上に忙しい。塾やけいこ事を複数習っている。そんな子どもたちがこのキャンプに来ると「田舎のテンポでゆっくり、のんびりできる」という。この夏誕生日をするためにキャンプに参加した子がいた。共働きで店を営む両親の姿をみて、彼女は、新治で誕生日を祝ってもらって、喜んで帰っていった。

 また、学年よりもかなり幼く、学校ではいじめられているかもしれない子も来た。最初心を閉ざしていた彼は、異年齢集団の、低学年の子どもと遊ぶことで自分の居場所を見つけ、「また来る」といって帰っていった。

 主に行われる活動は川遊び・山遊びなどである。おそらく今の大人たちが子どものころ、普通にやってきたことである。しかし、都会ではそういうことができる自然環境がほとんどなくなり、縦割りの異年齢集団が崩壊し、外遊びの伝承が失われてきている。そんな状況で、子どもに自然の中のダイナミックな遊びを伝えることができるのは自然学校など限られた事業体しかない。

 私たちが提供するのは自然体験だけではない。生活体験も自然体験と同様、重要な側面である。今年の夏感じたのは、食事のマナーが良くないことと、偏食の多さである。キャンプでは、皆で一緒に配膳(ぜん)、食事、片づけをする。その中で、はしがうまく使えない子やお茶碗(わん)を持てるのに持たずに食べる子が何人もいた。どうやら、家庭で一緒にごはんを食べる機会がほとんどなく、躾(しつけ)られずに育ってしまったことが原因のようだ。好き嫌いが激しい子も多い。生まれて初めて「嫌いなものを食べることに挑戦した」子もいた。その挑戦で、地元の採れたての野菜を食べて、嫌いな野菜が好きになった子もいた。

 いろいろな課題はあるが、ほとんどの子どもたちは、ここでは食器を洗い、配膳をし、そうじをするということを進んでしてくれる。このようなことは自然学校だからこそできる「生活力の向上」である。

 まだまだ、自然学校について、社会全体の認知度は低い。しかし地域の教育力が低くなり、子どもたちの自然体験が乏しくなっていく中でその存在価値はますます高まっていると思われる。ぜひ応援していただきたい。

(上毛新聞 2003年10月30日掲載)