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群馬アレルギー再生臨床研究センター長 黒沢 元博さん(高崎市綿貫町)

【略歴】群大医学部卒。医学、薬学博士。米セントルイスのワシントン大内科学免疫アレルギー部門フェロー、弘前大と秋田大助教授などを歴任。アレルギーなど研究のAAAAI国際コミュティ日本代表メンバー。

アレルギーって何?



◎20世紀に爆発的に増加

 「私、××さんにアレルギーなの」「私、花粉症。冬になるとアレルギーが出るの」などなど、アレルギーに関する会話は、日常よく耳にする。実はこれらの会話、医学的にはどちらも誤りである。

 アレルギー(allergy)とは、ギリシャ語のallos〈変わった〉とergo〈反応〉とに由来する言葉で、“変わった反応”という意味である。

 では、アレルギーは何に対して変わった反応なのであろう。答えは免疫に対してである。免疫とは、体が異物から自分を守る仕組みである。免疫は、はしかなど、一度かかると再びかからない病気があることで容易に理解することのできる、体の防御機構である。これが、不幸にも裏目に出て、病気になるものがアレルギーである。従って、「アレルギーなの」「アレルギーが出るの」というには、症状の発想に、免疫が関与することが証明されなければならない。××さんが体に入って、免疫にかかわることもなければ、冬にはふつう飛ばない花粉が飛んで、アレルギーを起こすはずはない。

 アレルギーという言葉が最初に使われたのは一九○六年で、まさに二十世紀に始まり、二十世紀に爆発的に増加した病気である。ちなみに、アレルギーの一つであるアトピー(atopy)とは、ギリシャ語のatopos〈場の外、変わった〉に由来する言葉で、“奇妙な病気”という意味で一九二三年にはじめて使われた言葉である。

 アレルギー疾患としては、気管支喘ぜん息そく、じんま疹しんやアトピー性皮膚炎、花粉症やアレルギー性鼻炎などが挙げられる。わが国において、アレルギー疾患に悩む国民の数は、ここ二十年来増加の一途をたどり、最近では、何らかのアレルギー疾患をもつ国民の割合は30%を超えた。まさに、国民病である。

 気管、鼻、皮膚、眼め、消化管など、さまざまな臓器に発症するアレルギー疾患は、症状が多彩である。従って、アレルギーに悩む方々は、皮膚科、耳鼻咽いん喉こう科、眼科、小児科、内科など、多くの診療科を受診することになる。近年、わが国においても、診療標ひょう榜ぼう科としてのアレルギー科が認められたが、多臓器の診療が連係した体系をもつアレルギー科の診療を行っている施設は極めて少ない。アレルギー科のある医療施設を受診してみると、小児科や皮膚科だったり、耳鼻咽喉科や眼科であることはよく経験する。

 一方、最近のマスコミやインターネットなどの情報技術の進歩に伴い、一般の方々でも医療情報は飛躍的に入手可能となった。しかし、同時に必ずしも正確でない、あるいは正確に理解されにくい知識の伝達が容易になっていることが問題である。身近な病気であるアレルギーに関しても、一般の方々の間に混乱が起きている。

 アレルギーの知識を正しく整理するために、わかりやすく、お役に立つ情報を、一年間お届けしたい。

(上毛新聞 2003年11月17日掲載)