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NPO法人「お互いさまネットワーク」代表
恩田 初男さん
(館林市北成島町)

【略歴】村田簿記学校卒。税務会計事務所、音楽出版社に勤務。2000年からNPO法人「お互いさまネットワーク」代表。痴ほうの人のグループホーム、有償ボランティア事業に携わる。

生活支援サービス



◎支え合い豊かな地域を

 NPO法人お互いさまネットワークで生活支援サービス(有償ボランティア)を開始したのは、一昨年五月です。最初の利用者は、ぎっくり腰で立って行う家事が困難になった四十代の主婦の方からでした。依頼内容は買い物、食事作り、掃除、洗濯物干しでした。なにせ最初の依頼なので、コーディネートを担当するわたしも、活動する協力者も、緊張しながら要望に応え、サービスを行いました。その方は二週間程度でぎっくり腰も良くなり、サービスを終了しましたが、「一時はどうしようかと思ったが、本当にありがとう」と言われた時には、ほっと安あん堵どしました。それからは、掃除、買い物、通院の付き添い、犬の散歩、入院している人への食事介助など次々に依頼があり、この活動の必要性を実感しました。

 急速な経済発展によって、物質的に豊かな生活ができるようになった半面、人々の関心は地域社会から遠のき、会社を中心として働く場に重点が置かれていると感じられます。また、家族構成も変化し、若い世代を中心とした人たちが就労の場を求めて、地方から都心やその周辺に移り住むことで、単身世帯や核家族が増加。一方、地方では高齢者の一人暮らしや高齢者世帯の増加が避けられません。

 高齢化社会に対応するため、介護を家族や行政だけでなく、社会全体で取り組む目的から二○○○年四月、介護保険が実施されました。世間話で「ばあさんがデイサービスの利用を始めた」とか「じいさんが近ごろ、ボケちゃって」など割合、気楽に福祉や介護のことが話題に上ったり、介護サービスを気兼ねなく利用するようになったことは、とても良いことだと思います。

 しかし、介護保険は高齢者の介護は賄えたとしても、生活の多様な部分を支えることはできません。大切にしている人に会いたいが、一人では外出できない人、買い物が唯一楽しみな人、庭の花を大切にしている人、サークル活動が生きる力になっている人など、個々人の生きがいや楽しみ、こだわりなどが生活には欠かすことができない事柄ですが、これらのニーズには介護保険はなじみません。

 また、日常には思わぬ出来事やアクシデントは付き物です。病気やけが、急な用件など、だれかの手助けがほしいものです。このような時に頼りになる親類や知人が近くに住んでいれば力になりますが、そのような人が必ずいるとは限りません。では、隣近所の人に頼れるでしょうか。あいさつ程度の関係では厚かましくてお願いできません。

 近隣の支え合う関係が希薄になってしまった今日では、新たな支え合えるシステムが不可欠となっています。

 だれでも住み慣れたところで安心して暮らせるために、困った時には「お互い支え合える地域社会」を目指し、生活支援サービスを開始しましたが、住民相互の主体的なこのような活動が広がり、住民同士が支え合うことができる豊かな社会にしたいものです。

(上毛新聞 2003年11月25日掲載)