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フランク英仏学院副学院長 フランク佳代子さん(前橋市小相木町)

【略歴】早稲田大、東京日仏学院卒。日本エールリキード秘書室勤務を経て、欧州や中近東で英仏語の通訳として活躍。1980年、米国人の夫とともに英会話教室を設立し、幼児から成人まで幅広く指導。現在、フランク英仏学院副学院長。

教会式の結婚式



◎神聖なるものの前で誓う

 この数年来、町のあちこちに建てられた瀟洒(しょうしゃ)な教会が人目を惹ひきます。多くはブライダルビジネスの一環であって、本当の教会とは関係がないようです。外国の教会とタイアップしているものもありますが、多くはハリウッドのセットのようなもので、式場として使用されるほか、記念写真の背景や雰囲気づくりに一役を買っているようです。

 私どもの教室でフランス語を教えているRさんは、そんな教会の牧師役を依頼されました。「つまり、にわか坊主ってことネ」。「ギャラは教師をするよりずっといいんだ! でも断ったよ。僕にも良心というものがあるからね」。キリスト教国に育った人として良心の呵責(かしゃく)に耐えられないということでしょうか? 「イヤー、日ごろ神に背いた生活をしているから、牧師に化けたら罰が当たっちゃう」と独特のユーモアでかわしました。その後、牧師役はイラン人に回ったそうです。このごろ結婚式場ではドアボーイまで外国人だということ。金髪、青い目をしたスタッフは明るい雰囲気を醸し、高級感を一層盛り上げるということなのでしょうか?

 私とアメリカ人である夫は一九七八年、バレンタインデーに米国サンフランシスコ市で結婚しました。ジョン・レノンが殺害された冬でした。そのころのアメリカでは、真実の愛だけが大切で、結婚は形式にしかすぎないという考えの若者が多く、式を挙げるのはアンファッショナブルなことでした。親元を離れていて資金も少なかった私たちは、市役所で簡単な手続きを行うことに決めました。

 古ぼけた市庁舎でサインを済ますと、五階建てのビルのトップの小部屋に案内されました。エレベーターですっと上がると、下から見た霧に覆われた冬空は嘘(うそ)のようで、青空にポッカリと白い雲が浮かび、まさに雲上の空間でした。白髪で柔和な笑みをたたえた神父様と証人が待っていました。「これからいろいろとあるだろうけど、生涯伴侶としてお互いをケアしていくと誓いますか?」。神父様のまわりには聖(きよ)らかなオーラがあって、私は突然、天国の一室で神様の前で約束をしているのだという錯覚に襲われたのです。予備知識もプランもなかったせいか、まさに天からのギフトにも感じられたのでした。これらのサービスはすべて無料でした。立派な教会を背にした記念写真もなく、ドレスを何度も着替えたわけでもなく、誠に簡素な結婚式でしたが、あの時の本物の神父様の存在は忘れられません。

 多くの外国人にとって、信仰は命ほどに大切なもの。教会で結婚式を行うのは神聖なるものの前で誓い祈るという意味合いがあるからです。需要に対して既成の教会では間に合わない事情はよく分かりますが、イメージだけの教会がこんなに増えていいのでしょうか。外国人が知ったらさぞおかしく不思議に思うのでは…。教会式を選ぶなら教養のためにも聖書を少しひもといてみてはいかがでしょう。欧米文化の格好よさをまねるだけでなく、彼らの考え方の根底を識(し)ることが深い国際理解へと繋(つな)がるように思うのです。

(上毛新聞 2003年12月4日掲載)