視点 オピニオン21
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主婦 大谷 幸枝さん(新里村鶴ケ谷)

【略歴】群馬大学芸学部卒。県内の小中学校で38年間、教職に就く。退職後、食品の安全性への問題や環境ホルモンの影響などについて、生活協同組合(コープぐんま)を中心に広報活動を行っている。

今どきの若者たち



◎大人こそ考え直そう

 最近私が経験し考えさせられたことです。満員電車の中で私の隣に立っていた二人の中年女性が、ひそひそと話し始めました。「まったく今の若いのときたらシルバーにふんぞりかえって寝たふりをしているよ」「みんなそうよ。しらばっくれて!」。電車が止まり大勢の人々が降り始めた瞬間、ものすごい勢いで人をかき分け突進し、二人の女性はシルバー席に腰をおろしました。

 乗り継ぎ駅のベンチで新聞を読んでいた二人の男性が話し始めました。「今の子は恐ろしいねえ、何やらかすか分かりやしない」「ほんとに何考えてんだか―」「うちの息子なんか声かけたって返事もしやしないよ。一体どうなって―」。電車が来て話は中断、私も乗って考え込んでいるうちに、過日少年犯罪を扱ったテレビで聞いた万引・ひったくりの少年の声が耳によみがえってきました。「こんなに簡単に金が手に入るんだったら、またやるかもしれない」

 本当にこのままで良いはずはありません。今に至る五十年間の人々の生活の変化を考えてみました。さまざまな機器や新技術が目をみはる速さで次々と開発され、多量に消費されて生活は過剰なまでに便利にぜいたくになりました。その結果、ほとんどの人々ががまんする経験や物を大切にする習慣等を捨ててしまいました。金がすべてと錯覚させる物質社会は、人間としての心の持ちようまで変えていきました。当然とばかりに利権にすがりつく人々、見通しのつかない不安な現状に不満を言うだけの人々、地道に努力している人々も大勢いますが、若者たちはそうした社会で育ってきたのです。今若者たちの心や行動の予測しにくさを深刻に受けとめないと、取り返しのつかないことになるのではないか、と恐れました。

 着いた博物館で私はびょうぶに描かれた松林図を見ているうちに、作者がどんな思いでこの絵を描いたのか気になり、じっと思いめぐらしていました。隣の若者もじっと立ちつくしていたので、どんな気持ちで絵を見ているのか小声でたずねてみました。すると若者は「分からないのです。でも気になって…」と言葉を濁し、逆に聞き返されました。「あなたはどう感じたのですか」と。

 私は率直に感じたままを話しました。すると若者はていねいに頭を下げ「ありがとうございました」と言ったのです。私はとやかく言われている若者と違った礼儀正しさに感動して「いつまでもその誠実な心を大切にしてください」と言ったところ、若者にこう言われたのです「私は私を含めて今とやかく言われている若者の心を大切にしていきます。」と。私は自分が何と無神経な言い方をしたのか恥じました。若者の心を思いやらず差別していたのです。

 若者に限らず誰に対しても相手の心を分かろうとすれば、相手の痛み苦しみに気付き互いに思いやりが生まれ、人々の輪が広がり信頼が回復できていいのになあと思いました。

(上毛新聞 2003年12月6日掲載)