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前太田市教育長 正田 喜久さん(太田市八幡町)

【略歴】太田高、早稲田大卒。太田市商、伊勢崎東高、太田高の各校長などを歴任し、1997年7月から今年7月まで太田市教育長を務めた。著書に『知の風に舞え』『新田・太田史帖』などがある。

日本人の心の再生



◎新しい実践徳育運動を

 最近の大人の言動や青少年の凶悪事件などを見聞するにつけ、道徳力の衰退、教育の無力化、家庭の教育力の低下などを考えさせられます。これらの根本的原因は、今までやってきた人間の行為にあるので、国民全体で冷静に過去を振り返り、反省すべきは反省することが大切だと思います。

 今までの社会風潮は、戦前に考えてきたこと、なしてきたことは、すべて古くて悪であるとする考えや、いやな思いがあって戦前へのアレルギーを持っていること、また、イデオロギーや自虐史観上から戦前のことを持ち出すこと自体が反動的復古的で国家主義的であり、個人主義に反するとの主張などから、今までの日本や日本人のよさを一顧だにしてこなかったきらいがあるのではないでしょうか。

 最大の原因は戦後の占領政策で、日本の伝統や文化、精神的価値、人物史や人物の顕彰などを否定し、抹消して旧体制の解体と主戦国になる道を防ぐことにあったことです。

 今日、グローバル化した中での混迷と不透明な社会、過度の個人主義と多様な価値観による公私観念の混乱、自由や平等の本質の履き違え、日本人のよき精神を形成してきた徳育教育の軽視、人間はほっておいても育つという楽観教育、青少年の理想主義や社会規範の欠如、さらにはいたずらに新奇なものに走る風潮などがあり、これらには日本人としての精神的根本問題があるように思います。そのため、日本人として新しい精神作興を考えるべきだと考えます。従来の抽象的議論や教育ではなく、具体的な国民的指標を作成し、国民一人ひとりが理解し実践できる方策を立てることです。それにはまず、先人たちの努力とその功罪を明らかにして、あるべき日本人の心や生き方を見いだし、従来の修身や道徳教育に代わる現代的な新しい徳育運動を展開すべきだと思います。

 もちろん、戦前へのノスタルジアとか、指標を作ることは国家統制で言論思想の自由に反するとか、各校の校訓やスローガンで十分だとか、いろいろな意見や反論をする人が出ると思います。しかし、そのような考えでやってきた現在、社会や青少年問題はよくなってきたでしょうか。原因は社会や反勢力にあると責任を負わせて是とするのでしょうか、それとも他に最良の方法があるというのでしょうか。

 確かに、憲法や教育基本法には高こう邁まいな理想理念が書かれております。また、小中学校の「道徳」でも、学年によって十五から二十三項目の内容を学んでおります。しかし、これらは抽象的で具体的実践に結びついていないように思います。

 これからは、こうしたものをベースに、先人の残した提言や教え、例えば本県で刊行した『修身説約』(明治十一年)、賛否両論の多い『教育勅語』(同二十三年)、戦後の天野貞祐『国民実践要領』(昭和二十六年)、中央教育審議会『期待される人間像』(同四十一年)などを参考にし、新しい実践徳育項目ができないものか、と思っております。

(上毛新聞 2003年12月8日掲載)