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高崎ハム元会長 江原 平治さん(高崎市上滝町)

【略歴】県立箕輪青年道場(現県立農林大学校)卒。養豚経営で農林水産祭天皇杯受賞。県農業経営士協議会長、高崎市農協副組合長、群馬畜産加工販売農業協同組合連合会(高崎ハム)会長などを歴任。

農業人として60年



◎異業種交流が心の糧

 時代社会は大きく変わり、人間の価値観が多様化する今日、農業は人間生活に最も必要な正業でありながら、第一次産業の特殊性からその利益率は極めて低いものがあります。そうした事態から脱却し、農業者の生活を確保するための農政活動は、組織を通じて展開しているところでありますが、国際化が進展する今日、きびしい環境下にあることは国民がひとしく認めることと存じます。

 そうした環境の下、私ども農業人は問題をどのように受け止め、とらえていくか、ということが課題であると思います。私は、人間としてより大切なことは、自分の仕事に自信と誇りをもち、大自然の恩恵に感謝の心で「リハーサルのきかない人生」を一日一日有意義に過ごすことだと思います。

 私は農業人として昭和十八年以来今日まで六十年間、日記とともに農業簿記の記帳を続け、労働時間、労働報酬等を分折検討の結果、順次経営の改善を行い、昭和五十年、法人経営へ移行しました。その間、関係機関をはじめ多くの方々のご指導のおかげで今日に至っていることを誠にありがたく深く感謝を申し上げる次第です。

 世界は一つといわれる情報化時代の今日、農業の在り方については、官民ひとしく認めるところと推察いたしますが、農業者にとっては明るい展望が見えてこないのは、大きな不安要因ではないかと思います。一方、国際化の進展とともに輸入農畜産物の増大と併せて、安心安全な差別化食品の供給が求められる今日、農業者に課せられる責任の重大性と農業人の義務すなわち道徳を認識し毎日の業務を孜し々しとして積み上げていくことに、意義と価値を見いだすべきだと信じます。

 私は平凡な農業人としての生活の中で心の糧と生き甲が斐いとを教えていただいたことは、異業種の方々との交流であったと思います。縁により多くの方々とのふれあいほど尊いものはないと思います。各分野で活躍されている方々の人格にふれて感じるものの大きさについて、人生の豊かさを感じる今日であります。その恩恵に対して、どう報いていくかが私に課せられた責任と思いますので、今後はあらゆる機会と場所をとらえて、初心に立ち返り、人間として反省を重ね、時を大切にすること―こうした一貫した姿勢を持ち続けることが人生の目的であると思います。

 私自身、七十代後半に入りました。振り返ってみると、行政とのかかわりで昭和三十五年ごろより地域農業の振興と後継者育成のための若い農業研修生を受け入れてきました。

 この後継者育成事業も私にとっては、大きな学びの場でもありました。他人様の子弟をお預りしての共生共学の生活は、ある意味では人生における出会いであり、千金に価するものと感謝の毎日でありました。古語に「ローマは一日にして成らず」とありますが、多くの方々とのふれあいにより、充実した人生を歩ませていただいたことに心から感謝申し上げ、生涯現役の精神で今後を生きたいと思います。

(上毛新聞 2003年12月28日掲載)