視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
大泉国際交流協会事務局長 坂井 孝次さん(邑楽町中野)

【略歴】新潟県三条工業高卒。大泉町の大手家電会社に40年間勤務。国の家電製品協会アセスメント委員長として、容器包装リサイクル法、廃家電リサイクル法の法制化に寄与。著書に『包装技術ハンドブック』(共著)など。

良かった探し



◎責任転嫁に終止符を

 景気の停滞からか、私の周りでは悪い話を聞くことが多い。失業、減収、リストラや年金の減額など、生活に直接影響するだけに厄介である。聞く話のほとんどが決まったように「国が悪い」から始まって「会社が悪い」「上司が悪い」と続く。しかも「自分も悪い」という話は聞かれない。

 実は私も二十年前に同じような体験をした。仕事に自信を持ち魅力を感じていた時に、上司への反抗的態度が災いしてか配置転換された。しかも「あそこにだけは行きたくない」との噂(うわさ)を聞く職場にである。「皮肉の法則」と自分に言い聞かせているのだが…。

 仕事、家庭生活ともに満足しきっていた時だっただけに、急激な生活環境の変化にはかなりまいった。今と違って日本が活気に溢(あふ)れていた時である。遊びの浪費癖があった上に、教育費や家のローンと出費が重なり苦しかった。残業で潤っている同僚と比べ残業ゼロの五年半は、家内が一番辛(つら)かったろうと思うが、今は詫(わ)びようもない。安易に現実から逃れようと「会社を辞めたい」と話したら「どうぞ辞めてください」と言われたが、辞められなかった。

 四年半ですっかり自信をなくしてしまった。「もしかして自分が一番だめな人間かもしれない」と思えたのはこの時からである。そんな時、テレビアニメの「少女ポリアンナ」が恵まれない環境の中で「良かった探し」をしているのを見て、素直にまねしようと思った。結果的にその職場から配置転換されるまでの一年間、毎日一つを目標に良かったことを手帳にメモした。それが私の財産になっている。

 その中に「環境が悪いのは自分が悪い!」という上司の言葉がある。今は「良い環境をつくるのも、悪い環境をつくるのも自分」と思い込んでいる。第三者の立場で考えれば「人が幸せをくれるわけがない」と思えるのに、自分のこととなると簡単にはいかない。責任を人に転嫁し自分を正当化してしまえば自分はいつも楽でいられるから…。

 それ以来「○○が悪い」と聞くたびに、ハンで押したように「悪いと分かったら自分で直したら」と言い続けている。悪いと思っても行動できない人もいるし、気が付かない人さえいるのだから、気が付いた人が最も効果的だ。言葉に責任を持たなければならないと、そのたびごとに自分に言い聞かせているのだが…。

 半年くらい前だったと思うが、リストラで苦しんでいた仲間から「あなたは魔法使い!」と言われた。「感謝している」と言われたと思い、心から喜んでいる。不景気で店を閉める所がある中で、行列のできる店もある。何が違うのか互いに考えたいものである。豊かな社会に生まれた人には気の毒な気もするが、考えを変えて「良かった探し」をしませんか? そして見つかったら自分に感謝しましょう。あなたに笑顔が戻ります。そして周りにも…。

(上毛新聞 2003年12月30日掲載)