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群馬アレルギー再生臨床研究センター長 黒沢 元博さん(高崎市綿貫町)

【略歴】群大医学部卒。医学、薬学博士。米セントルイスのワシントン大内科学免疫アレルギー部門フェロー、弘前大と秋田大助教授などを歴任。アレルギーなど研究のAAAAI国際コミュティ日本代表メンバー。

アレルギー疾患



◎住居の変化などで増加

 三人に一人の日本人がかかっている文明病がアレルギー疾患である。二十世紀、アレルギー疾患は爆発的に増加した。なぜ、アレルギー疾患は激増したのだろうか?

 第一、そして最大の原因は、住環境の変化で、ダニが増えたことである。従来の日本の住居の多くは木造で、風通しがよかった。冬の木枯らしや冷気がすき間風となって部屋の中に入り、部屋が暖まらずに困ったものだった。近年、日本の住居は急速に欧米化、アルミサッシが普及し、気密性が高まった。冬は暖房、夏は冷房で快適に過ごせる。実は、これが、ダニにとっても年間を通してすみやすい環境を提供した。ダニの糞ふんや死し骸がいは、アレルギー疾患発症の主要な原因である。

 また、室内でのペット飼育が増え、ダニが増えた。ペットのフケや唾だ液えきはアレルゲン(アレルギーをおこすもと)となる一方、ダニの栄養源ともなり、ダニをさらに繁殖させ、状況を悪化させる。

 第二の原因は、食生活の大きな変化である。島国の日本では、魚がタンパク源の中心であったが、近年は肉中心となった。魚の脂にはアレルギーを抑える効果があるともいわれる。防腐剤や着色料など、食品添加物もアレルギー疾患を増やしている。

 また、妊娠中や授乳中の母親の喫煙や高タンパク食物の過量摂取により、生まれる赤ちゃんがアレルギー体質になる。昔は、赤ちゃんは母乳で育てられたが、今は早期離乳が一般化している。このため、消化管機能が未熟な赤ちゃんでは、摂取した食物が未消化で吸収され、アレルギーが発症する。

 第三にあげられることは、栄養や衛生状態が改善したことである。昔のこどもははな垂れ小僧といわれ、よく青ばなを垂らしていた。この青ばながアレルゲンを吸いこませない防波堤の役目をしていた。今のこどもは、清潔な環境で生活し、かぜにかかると早くからかぜ薬を服用する。結果的に、体の防御機構が十分に発達しない。

 また、日本人は昔、寄生虫によく感染した。寄生虫に感染すると体の中でアレルギー発症のしくみが崩れ、アレルギー疾患が発症しなかった(しかし、アレルギーを治すために寄生虫に感染すればよいということではない)。

 現代社会では、ダニのほか、花粉などアレルゲンとなるものが増加している。さらに、粉ふん塵じんなどの大気汚染や日常生活のストレスが、アレルギー疾患発症に拍車をかける。

 「なぜアレルギー疾患はふえたか」を主題の一つにして、昨年第一回アレルギー・アトピー公開セミナーを開催した。おとそ気分がぬけ、少々知的欲求が増すころと考え、一月十九日に開催したが、幸いにして好評であった。本年は今月十八日の午後二―四時に、玉村町文化センターにしきのホールで開催する。主題は「よくある誤った知識」などで、アレルギー・アトピーに関する誤った知識を修正し、分かりやすく、正しい情報を提供する。入場無料。

(上毛新聞 2004年1月9日掲載)