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(有)南牧村ブルワリー代表取締役 青木 重雄さん(南牧村羽沢)

【略歴】1965年、下仁田町生まれ。91年からワーキングホリデーの制度を活用し、オーストラリアなどを渡り歩く。帰国後、93年から南牧村で外国人対象の宿泊施設、現在は地ビールとピザの店を経営。

国際人



◎自分の行動に責任持つ

There's a first time for everything(何事にも最初があります)。ある映画の中のセリフですが、この言葉に何度も励まされました。ワーキングホリデー制度でオーストラリアへ渡航したのが25歳の時。初めての海外、見る物聞く物すべてが初めての経験でした。

 ガイドブックを頼りにシドニー市街地へ、まずは宿探しから。オーストラリアには、ユースホステルやバックパッカーズといった長期滞在者向け宿泊施設が各地に幾つもあります。料金も一泊十五豪ドル前後と格安で、部屋はドミトリー(相部屋)、キッチン、バス、トイレは共同といったスタイルが一般的です。

 ガイドブックの中からシドニー郊外にあるユースホステルに決めました。宿に着くと、思っていた以上にワーキングホリデーの日本人が滞在しており、いろいろ親切に教えてくれるので、海外生活への不安はすぐに消えていきました。出発前、「海外に行けば自分のやりたいこと、やるべきことが必ず見つかる」とずっと思っていました。それが何なのか? その答えを求めて最初の数日間はとにかく街中を歩き回りました。しかし、そう簡単に見つかるはずもありません。

 ある日、ふっと立ち寄った公園で見上げた空、その大きさとどこまでも透き通るような青空に感動しました。「あー、海外にいるんだ」と実感した瞬間、自分の中で何かが変わりました。「焦らずゆっくりといこう」。新たな自分探しの旅が始まりました。

 まずは英語の勉強から。いろいろ語学学校を訪ねてみましたが、どこも授業料が高く、どうしようか迷っている時にシドニー大学内にランゲージセンターという施設があることを聞き、行ってみました。そこはビデオやカセットテープなどの語学教材が充実しており、年会費百豪ドルを支払えば誰でも利用できます。何より日本語を勉強している学生や現地の人と知り合える機会があるので、ここで勉強することにしました。英語の上達は現地の友達をつくるのが一番。実際、学生のパーティーに招待されたり、高校で日本語を教えている先生と知り合ったり、今でも交流が続いています。

 オーストラリアの生活にもだんだん慣れてきたころ、あることが気になってきました。それは日本人のマナーの悪さです。観光客の醜態は国内外で時々話題になります。国籍や言葉、文化、価値観の違う人たちが共同で快適に暮らすには、その国その場所のルールを守らなければなりません。

 そのことを痛感したのはある事件がきっかけでした。それは、室内禁煙の宿泊施設で日本人男性の喫煙がオーナーに見つかり、真夜中にもかかわらず追い出されるはめになりました。彼は片言の英語で許してくれるよう必死に頼みましたが、聞き入れてもらえませんでした。

 オーナーは彼にこう言いました。「もし、あなたを許してしまえば、次に同じことをした人も許さなければならない。それではルールの意味がない」と。「たかが喫煙で」と思うかもしれませんが、ルールを守り自分の行動に責任を持つ、これは国際人としての第一歩ではないでしょうか。

(上毛新聞 2004年1月20日掲載)