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東京経済大学教授 田村 紀雄さん(東京都八王子市)

【略歴】前橋市生まれ。太田高卒。東京大学新聞研究所、カリフォルニア大、中国対外経済大等で研究教育に従事。お茶の水女子大、埼玉大等で講義。東京経済大で学部長、理事歴任。日本情報ディレクトリ学会会長。

求職の新卒者へ



◎説得する能力を磨け

 就職が厳しい時代である。新卒者にも再就職者にも春はまだ遠い存在だ。就職が厳しいのは、長びく不況もさることながら、国際的な経済状況の変化や産業構造の改革に、求職する学生・生徒、父母や学校側の意識変革が追いつけないことも見逃せない。

 寄らば大樹の蔭、安定を求めての求職は分かるが、現実には世界的な大企業にもリストラの波が押し寄せ、年功序列給や終身雇用の制度が崩壊しつつあることは周知のことだ。この現実を若い求職者、特に学生・生徒が十分理解していない。家庭や学校の認識もまだ甘い。

 あるボランティア団体の顧問のような仕事を私は長く続けている。この団体は金融機関に勤める若い人々の集まりだが、あるとき創立二十年ということで、歴代の指導者二十数人が集合した。ところが、互いに近況報告をして驚いたのは、ほぼ全員が転職していたのである。多くは、金融機関の中での転職だったが、今日の改革の激しさを実感した。

 このケースではないが、就職しても三年くらいで転職、退職する若者が多い一方、企業によってはその補充のため、即戦力のある退職者から中途採用するところもある。要するに、就職・求人戦線が大きく変ったのである。

 キャリアを積み、力量と積極性のある従業員を求め、そのような人材養成に教育課程も少しずつ動いてはいるが、遅過ぎる感もする。リクルートルックで都内を右往左往する姿が少なくなり、求人がホームページで周知され、アプリケーションフォームも面接予定日や場所も電子メール連絡に移った。別のいい方をすれば、IT(情報技術)をある程度、習熟していないと求職活動ができなくなった。

 これは、この数年間の驚異的な求人求職革命である。秩序ある求人求職活動を進めるため、日本経団連は「採用選考に関する企業の倫理基準憲章」を示して、教育環境の確保に気を使ってはいる。しかし、就職活動シーズンが年々繰り上がり、一年を通して年中行事化している傾向もある。

 この理由の一つに、就職志望者側の問題もある。何をしてよいか分からない、自分の能力を引き出せないでいる。流れに身を任せている。キャリア設計がうまくいってないのだ。

 これらの弱点が、学生たちに企業へのプレゼンテーションを不満足なものにしている。自分が何をやりたいか、という確信なくして、相手に説得的なプレゼンテーションが行えるわけがない。フォームの書き方からして、説得の技術なのだ。

 学校での教育課程で、キャリア設計に力を入れるところも増えてきたが、自己を相手に十分に示すことのできる能力も併せて教育に取り入れていく必要があると思う。

(上毛新聞 2004年1月23日掲載)