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(株)ちばぎん総合研究所代表取締役社長 額賀 信さん(神奈川県川崎市)

【略歴】東京大法学部卒。日本銀行に入行後、オックスフォード大留学、経済学修士卒。神戸支店長を経て退職。著書に『「日本病」からの脱出』など。経済誌への寄稿、テレビ出演などを通して持論を展開。

観光立県



◎学ぶ点多いスペイン

 今、観光立県を推進する県が増えている。国自体、二〇〇三年を観光立国元年と称した。観光立県とは、観光を県の主要産業の一つと位置づけ、観光産業の育成を通じて県民の所得や雇用を確保していこうとする産業政策のことである。

 そうした観光政策を企画・実行するために何が必要なのだろうか。それを探るため、〇三年十一月下旬、観光大国であるスペインへ行って、多くの観光政策立案者と会ってきた。その報告は、週刊エコノミスト誌の迎春合併号に掲載されているが、印象的だったことの第一は、地域間競争が非常に強いことである。

 マドリード市観光事務所のアリバス広報課長は、「われわれの最大の競争相手は、パリでもローマでもなくて同じスペインのバルセロナだ」と言い切っていたし、第四の都市セビリア市でも、マドリードとバルセロナに追いつきたいとして、それぞれ年間三十回も海外に観光客誘致団を派遣している。こうした地域間競争が、全体としてスペインの国際観光を盛り上げているのである。

 第二は、スペインの国際観光もリピーターに支えられていることである。経済省観光総局のニエト調整担当次長は、「スペイン観光客の90%はヨーロッパ人であり、彼らの多くは既に何度かスペインを訪れているリピーター」としていた。

 観光州であるアンダルシア州でも、観光・スポーツ庁のアロッカ副長官が、同州を訪れる外国人観光客の60%がリピーターとしたうえで、「観光振興計画を策定するに当たっては、ホテル、各種の小売業者、さらに労働組合までにも声をかけ、意見を吸い上げ、関係者総意の下で計画を策定し、実施している」としていた。関係者の一人でも観光に対する考え方を異にするようでは、そこを訪れた人たちが決して良い印象を持たないからである。

 第三に、一連の観光政策を支えているのが、観光統計である。スペインでは、州、主要都市ごとに、観光客の数、国籍、宿泊日数、目的等を把握し、毎月公表している。例えば十一月の数字は、通常十二月二十日までには公表されるから、速報性もきわめて高い。観光収入額についても、二カ月半遅れで地域ごとに公表されている。

 このような統計作成は法令により、ホテル、小売店、主要観光施設等に詳細な報告を義務づけることによって実現している。また、全国で毎月五万件の聞き取り調査を実施して、統計から落ちやすい数字(例えば、友人宅への宿泊等)も補足する努力をしている。

 観光統計は、スペイン観光を支える最も基本的なインフラである。インタビューをしたすべての人々が、あいまいな推測ではなく、正確な数字に基づいて地域の観光パフォーマンスを評価しているから、議論に迫力があった。何よりも観光統計は、観光政策の適否や当局の努力をきちんと評価できる点で重要である。「観光統計なくして観光政策なし」との思いを強めた出張であった。

(上毛新聞 2004年1月27日掲載)