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東京商工リサーチ前橋支店長 山内 弘夫さん(前橋市上新田町)

【略歴】前橋高、明治大政治経済学部卒。1982年、民間信用調査機関の東京商工リサーチに入社。前橋支店に勤務し、企業調査に従事する。同支店情報部長を経て、今年1月から現職。

創業は易く守成は難し



◎急成長の陰に破綻要因

 その社長はゴルフ場オープンまでの苦労話を上機嫌に語った。そして、苦笑いしながら「作り上げるまでが楽しいのです。完成した後は、どうでもいいのです」とも付け加えた。

 ようやくオープンにこぎ着けた安ど感が言わせた言葉かもしれない。しかし図らずも、その言葉は会社の行く末を暗示していた。新設のゴルフ場で内輪のコンペをし、その表彰式でのことだった。忙しい合間をぬって、わざわざ挨あい拶さつに出向いてくれたオーナー社長は、そう話すと「大いにご利用ください」と言い残し、忙しそうに会場を出ていった。バブル景気が始まる少し前のことである。

 大手建設会社に勤務していたこの社長は、脱サラして土木会社を創業すると同時に、かつてサラリーマン時代に手掛け、オイルショックで事業が頓挫していた土地のゴルフ場開発に再チャレンジ。紆う余よ曲折はあったものの、独立後八年目にしてついに長年の夢を実現させた。

 コンペはそのゴルフ場で行なったものだった。本体の建設会社も売上高が五十億円に迫っていた。まさに順風満帆の時期だった。この社長はその後、オープンしたゴルフ場を足掛かりに、次々に県内外でゴルフ場の開発を手掛けるとともに、外食業や運送業にも進出するなど、まさに破竹の勢いで事業を広げていった。時代はバブル景気に突入し、大いなる追い風が吹き出していたことも幸いした。

 ピーク時には、グループ会社は二十社を数え、本体の建設会社の売り上げだけでも三百億円を超えるまで急膨張した。バブルのなせる技と言えなくもないが、短期間のうちにこれだけの規模にした才覚はやはり尋常ならざるものだった。新たに事業を起こすことの醍だい醐ご味みを堪能したに違いない。

 「創業は易やすく守成は難し」という言葉がある。事業を起こすことより、事業を続け盛り立てていくことの難しさを説いているが、急激に成長している会社を見ると、この言葉とともに、先の社長のことを思い出す。急成長会社は、往々にしてその急成長の過程で破は綻たんの要因を内包していく。最大の問題はマネジメントが隅々に及ばなくなることだ。会社の成長に人材の育成や組織の構築が追いつかない。

 全体では数字が上がっているため、多少のことは大目に見られるが、それは後々の禍根となる。小さな会社だったころのままの感覚で人事や財務が行われると、あちこちに不平や不満の小さな渦が生じ、渦は合流して派閥が生まれる。成長している間は、表面的に波風は立たないが、業績が落ち始めると責任のなすり合いが起こる。事態は紛糾し、一挙に崩壊する。

 先の社長の凋ちょうらく落も早かった。ピークの翌年の本体売上は百六十億円、その翌年が七十三億円、そして四十億円まで売り上げが落ちたところで倒産に追い込まれた。きっかけはバブルの破裂だが、原因はそればかりとも思えない。絶頂期からわずか三年目のことである。

(上毛新聞 2004年2月1日掲載)