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県児童養護施設連絡協議会長 田島 桂男さん(高崎市下豊岡町)

【略歴】群馬大(古代史考古学専攻)卒。高崎市中央公民館長、市南八幡中・並榎中校長、市教育研究所長を歴任。児童養護施設希望館施設長、県福祉審議会委員、高崎市史編さん委員・同専門委員、育英短大教授。

児童養護施設



◎早急に抜本的な対策を

 児童養護施設は今、全国的な傾向として措置されてくる児童で満杯状態にある。本県の事情も同様で、県内六施設ともほぼ定員いっぱいで、新たに入所させたい児童があっても、なかなか入り切れないでいるというのが実情である。それも、ここ三、四年の間に各施設、かなり無理をしながら計五十人ほどの定員増を図ってきたにもかかわらずである。

 児童養護施設とは、児童福祉法で定める児童のための福祉施設で、公立のものと社会福祉法人が運営するものとがある。施設は保護者のいない児童、虐待を受けている児童、生活環境上保護を要する児童などを入所させて養育し、自立を支援することを目的としていて、十八歳までの児童が対象となっている。

 近年では、両親死亡の児童はごく少なく、保護者がいるにもかかわらず、子供の養育が満足にできないことを理由に入所してくる児童が多い。なかでも、肉親による虐待が理由の入所児童が増加している。

 児童の施設への入所は、児童相談所が保護者の承諾を得て一時保護し、数週間の観察を経て施設へ措置している。ときには、虐待事実があって、児童を親から未承諾のまま引き離すこともある。この場合は、最終的には家庭裁判所の審判を経なければならないが、児童を虐待から守るためには、やむを得ない処置である。

 厚生労働省の統計によれば、おととし一年間の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む平均の子供の数)は、一・三二人で過去最低。一方、夫婦の離婚率は過去最高で、いまは少子社会そのものであると言える。それなのに、親元で暮らすことができない児童が増えているという現状は、日本の社会として憂うべきことであり、早急に間に合わせではない抜本的な対策がとられなくてはならない、と思うばかりである。

 施設では、子供たちに精神的にも肉体的にもひもじい思いをさせまいと、衣食住すべてにかなりの神経を使って養育処遇に当たっている。また、境遇に負けず強く生きること、自分の将来のための努力をすること、同じ屋根の下で暮らす子供たちはみな兄弟姉妹、相互の協力、思いやりの心を育てるようにさせているが、これは決して生易しいことではない。

 近ごろ、若者や近い将来子供の親になる人への成人教育、社会教育、殊に公民教育の必要性を痛感している。自己中心の行動ではなく、子供のためには耐えることも学び、身につけてほしいと思う。また、近親者、知人、近隣居住者等による支援体制も組織的に行われなければならない、と考えている。

 子供が育つ環境としては何をおいても親元が一番。施設はいざというときのために、いつでも短期間預けられる機関として用意されているものの、開店休業がよいとすら思っている。

(上毛新聞 2004年2月10日掲載)