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ぐんま森林と住まいのネットワーク副理事長 大内 栄さん(桐生市本町)

【略歴】前橋工業短大卒。1984年に「大内栄+空間工房」を設立。本一・本二まちづくりの会役員。ぐんま森林と住まいのネットワーク副理事長。

地球環境の再生



◎持続可能なシステムを

 地球温暖化による地球環境の劣化が急激な勢いで進んでいます。その対策として二酸化炭素等の温室効果ガス削減を定めた「京都議定書」において、わが国は二○一二年までに6%削減が求められています。

 国による削減目標は、企業の技術開発や国民の努力による削減が2・5%、森林の吸収による削減が最大3・9%となっています。これは、人間による二酸化炭素の削減がいかに困難であるかを示すとともに、森林に頼らなければ減らすことができない現実を思い知らされます。確かに、森林は二酸化炭素を吸収する機能、木材になってもそのまま固定して蓄え続ける働きがあり、「炭素の缶詰」と言われています。

 また、森林はわが国において再生産できる数少ない資源です。私たちが木材をたくさん使用して炭素として蓄え、再び植林することで二酸化炭素の削減が可能となります。

 一方、地球環境の再生が期待されている森林は、それを守る林業が壊滅状態にあります。本県は関東一の森林面積を有した林業が盛んな地域で、中山間部では地場産業として地域を支えてきました。しかし、一九八○年を契機に木材価格は下落の一途をたどり、ついには立木価格が一本千四百円にまで落ち込んでしまいました。これは昭和三十一年の価格と同じで、四十七年前に植林されて手塩にかけ育てられた木が当時と同じ値段ではとても利業は成り立ちません。

 木材の価格低迷には、この国の家づくりの変換が原因として挙げられます。高度成長期以降、日本の家づくりは造る側の効率と見せかけのデザインを最優先に造られ、車や家電品と同様に商品として大量生産・大量消費の経済に組み込まれていきました。そこで建てられた家は二、三十年後にはその価値を失い、解体されています。建築材料に使われている多くの建材は、廃棄処理の過程で多量の二酸化炭素を排出します。廃材の大量廃棄による環境破壊は、大きな社会問題となっています。

 これまでの大量生産・大量消費の経済は持続不可能な経済システムであり、そこから得られた物質的豊かさを唯一の価値とする社会は、いまその在り方が問われています。

 日本は戦後五十年で経済大国になりましたが、その過程で失った大切なものがたくさんあります。自然環境や景観、今後の日本の産業を築く上で一番必要とされる技能者(職人)、そして安心な暮らしを支える地域コミュニティーなどです。このとき失われたものは、今後五十年かけても取り戻すことはできません。

 一昨年、「ぐんま森林(もり)と住まいのネットワーク」が設立されました。会の活動は後日、お話をさせていただきますが、「近くの山の木で家をつくる」という会の理念は、家づくりを通じてお互いが顔の見える信頼関係を取り戻し、それぞれの価値観を共有できるコミュニティーを再構築し、持続可能な社会システムをつくることにほかなりません。それは、失われたものを再び取り戻し、未来へ伝えることになります。

(上毛新聞 2004年3月2日掲載)