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群馬アレルギー再生臨床研究センター長 黒沢 元博さん(高崎市綿貫町)

【略歴】群大医学部卒。医学、薬学博士。米セントルイスのワシントン大内科学免疫アレルギー部門フェロー、弘前大と秋田大助教授などを歴任。アレルギーなど研究のAAAAI国際コミュティ日本代表メンバー。

花粉症



◎専門医の適切な治療を

 花粉が原因で起こるアレルギーが花粉症である。しかし、どんな花粉でも花粉症を起こすわけではない。花粉症の原因となる植物は頻繁に生息し、花粉をよくつける植物なのだ。美しい花を咲かせる虫媒花は花粉が少なくて済むので、花粉症の原因とならない。一方、風で大量の花粉を飛ばす風媒花のスギなどは、花粉症の原因となりやすい。また、花粉の大きさも関係する。大きい花粉(スギ花粉は直径二〇―三〇ミクロンと大きい)が鼻にとどまり、花粉症を起こす。

 わが国の花粉症といえば、スギ花粉症が代表である。日本人の十人に一人はスギ花粉症といわれる。都会ではその率がより高く、五人に一人。しかし、所変われば花粉症も異なり、北アメリカではブタクサ花粉症、ヨーロッパではイネ科植物花粉症が多い。

 日本で初めて花粉症が報告されたのは一九六一年で、ブタクサ花粉症だった。これは第二次世界大戦後にアメリカ軍の兵士が上陸した際、軍服に付いてきたブタクサの花粉が地面にこぼれ、長い歳月の間に繁殖したことによる。一方、スギ花粉症が初めて報告されたのは三年後の一九六四年。第二次世界大戦後、国策としてスギが盛んに植林され、林齢が三十年を超したスギには花粉が多くつき、花粉症が急増したためだ。

 戦後の生活環境の変化も、スギ花粉症の増加に拍車をかけた。都会では、スギ林から風で運ばれてアスファルトに落下したスギ花粉が、ビルの谷間に発生する上昇気流に乗って、長時間空気中を浮遊する。これに加えて、ディーゼルエンジンの排気微粒子を扱い込むと、スギ花粉症の発症が容易になる。スギ林の多い田舎に住む人より、スギ林のない都会に住む人にむしろスギ花粉症が多いのは、こうした理由による。

 くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみが花粉症の一般的な症状である。が、同時に、頭痛、倦怠(けんたい)感、微熱などの症状も八割以上の花粉症の人にみられる。これに関しての興味ある歴史的事実は、一八〇〇年代の北アメリカ。夏かぜが何回となく流行したのだ。牧畜のための枯れ草を収穫する時期に、微熱などのかぜ症状を訴える人が多くみられ、「枯草熱(こそうねつ)」と呼ばれた。後になって、枯草熱の正体はブタクサ花粉症であることが証明されたが、このことからも花粉症の一症状に微熱があることが分かる。このように、花粉症の症状はかぜの症状とよく似ている。よくかぜをひくと思う人、かぜが長引いてなかなか治らない人は花粉症を疑い、花粉症の検査を受ける必要がある。

 花粉症と診断され、「この注射を一本打てば、今年の花粉症は安心」という説明で、筋肉注射を受けることは要注意である。強力なステロイド注射で、副作用が多い危険性があるからだ。また、鼻づまりにすぐによく効く点鼻液は使い過ぎると、かえって鼻づまりを悪化させる。アレルギー専門医のいる医療施設で、適切な治療を受けることをお薦めする。

(上毛新聞 2004年3月9日掲載)