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コムネットQ代表 大橋 慶人さん(前橋市千代田町)

【略歴】前橋高、東京経済大経営学部卒。家業の鈴木ストアに入社し、2000年から社長。前橋中心市街地まちづくりネットワーク(コムネットQ)代表のほか、1999年には前橋青年会議所理事長を務めた。

まちかど探検隊



◎歩いて探そう街の魅力

 現在、日本全国の多くの地方都市は、広大な駐車場を備えた郊外型大型店が幹線道路に軒を連ね、隆盛を極めている。車社会の中での買い物には大変便利である。しかし、全国どの都市に行っても似たり寄ったりの光景で味わいがない。

 一方、各地方都市の中心商店街はかつての賑にぎわいを失いつつあるが、そこには昔から都市の「顔」としての役割を果たしてきた要素が数多くある。商店の名物オヤジやおかみさん、その道のプロがいる専門店、お祭りを支えてきた神社や由緒あるお寺、どっしり構えた蔵や検番などが点在する風情ある町並み。一つ一つの街が個性を持っている。そして、それぞれの歴史がある。車でスーッと通り抜けるだけでは、都市の魅力を感じ取ることはできない。ゆったりと街の中を歩くことで、今まで気が付かなかった新しい発見に出会える。

 コムネットQでは四年前の発足当初から「まちかど探検隊」を年に二、三回のペースで開催している。第一回目は「まちの記憶」と題し、中心市街地に残る興味深い建築物を、コムネットQのメンバーでもある前橋工科大学の先生が解説しながら訪ねて回った。戦争の空襲にも耐えた昭和四年建築の重量感ある百貨店の建物や意匠を凝らした蔵、中心部の路地裏にひっそりとたたずむ戦後復興住宅、モダンな感覚が現在も新鮮に映る昭和三十年代の集合店舗兼住宅などなど、街と人との歴史を感じさせてくれる。それらは決して過去の遺物ではない。今も街とそこで暮らす人々と一体となって息づいている。

 まちかど探検隊も回を重ね、これまで八回開催してきた。とりわけ、毎年桜の開花の季節に実施している「まちの桜と歴史」シリーズは人気が高い。中心市街地の中の隠れた桜の名所とまちの歴史を反映していた旧町名の由来、前橋の中心部で生まれ育った萩原朔太郎や詩人たちの足跡を訪ねた企画は好評であった。私の店が位置する、かつての桑町十二番地は馬場常七商店という薬種を扱う店があり、萩原朔太郎は若いころ、この店のお嬢さんである「馬場なか」という女性に一方的に恋をしていたという。今から百年近く前、現在のアーケードのある中央通りを、朔太郎がそわそわしながら足しげく往来していたことを想像するだけでも楽しい。

 また、一年の中で春の広瀬川の風景はなんとも美しい。柔らかい黄緑色の柳の新緑と川面まで垂れる満開の桜、滔とう々とうと豊かな水量を落とす広瀬川交水堰ぜき、比刀根橋、諏訪橋、絹の橋などの橋もそれぞれにノスタルジックで味わいがある。広瀬川の美しさは、この先も永く残しておきたい中心市街地の財産の一つである。

 本格的な春の訪れも近い。「街にはめったに行かないよ!」と言わないで、たまにはちょっと時間をとって前橋の街の中をゆっくり散策してみてはいかがだろうか。

(上毛新聞 2004年3月21日掲載)