視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
前太田市教育長 正田 喜久さん(太田市八幡町)

【略歴】太田高、早稲田大卒。太田市商、伊勢崎東高、太田高の各校長などを歴任し、1997年7月から昨年7月まで太田市教育長を務めた。著書に『知の風に舞え』『新田・太田史帖』などがある。

感性を育てる



◎広めよう童謡や唱歌

 戦後、わが国の青少年犯罪のピークが四回ありました。時々の特徴は、その時代の社会状況や大人の言動によって異なっていますが、次第に低年齢化、凶悪化、広域化し、すぐキレる、暴力的になることなどが目立ってきています。

 これらは不透明感や閉塞(へいそく)感があり、社会不安が漂っている現代社会のひずみや空気が、青少年の心に影を落としているのかもしれません。また、家庭や地域の教育力低下によって、あらゆる生命体が誕生と同時に持っている感性や、感性と知性の調和のもとで精神が成熟すべきなのに、それが育ってきていないためかもしれません。

 感性は外界の刺激や印象に応じて、衝動、気分、欲望、情緒、情操などの感情を直観的に感受して反応し、物事を決断して行動させる能力です。これらの中でも、感性を高める情操は道徳的、論理的、美的、宗教的などの高次の価値をもった感情なので、特に大切なものです。

 そのため、学校教育では音楽や美術の教科をはじめ、音楽会、学習発表会、文化祭、美術作品展などを開催し、また、総合的な学習の時間におけるさまざまな体験を通して、豊かな感情や表現、自由な想像などを身に付ける情操教育を行っています。

 この感性を高めるのには、学校教育だけに委ねるのではなく、先人たちが西洋音楽を学びつつ日本独自の風物や自然、行事などを詩情的に織り込んだ文化遺産である童謡や唱歌を活用するのも、一つの方法であると思います。

 残念ながら、これらは戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の占領政策で軍国調だ、国家主義的だとの主張で追放され、さらに歌詞が難しく歌いずらい、差別的表現があり法令に合わない、「鍛冶(かじ)屋」などどこにも見当たらないなど、現代感覚から取り上げる機会が少なくなっています。

 特に学校教育でも「ゆとり教育」の推進によって、学習指導要領が改訂されるごとに教科書に掲載された歌曲数が減少しました。現在、小学校では音楽科目で各学年四曲の唱歌、わらべうた、民謡の歌唱共通教材が示され、五・六年生ではその中の二曲、それ以外では三曲を含めて斉唱、輪唱、合唱で歌うことになっているだけです。

 「春の小川」「ふるさと」「この道」「浜辺の歌」「赤とんぼ」「もみじ」といった歌は、日本の四季と風土の中で生まれ、その時代の空気、風俗、習慣、遊びなどを美しい日本語で表現しています。また、曲もしっとりとして格調高く、ほのぼのと心を温め、安心感や落ち着きを与えてくれるものばかりです。

 テレビやラジオなどから流れる音楽の単語の羅列、意味不明の擬音語や造語、絵本的遊戯的なものではなく、長く歌われて親しまれ、日本人の魂や情感、郷土愛、文化性をもった童謡や唱歌を青少年にもっと広め、一緒に歌いたいものです。そして、青少年一人ひとりの感性を育て、情操を養い、心に安寧を与え、夢と自信と誇りを持って、この二十一世紀を堂々と限りなく前進させてやりたいものだと願っています。

(上毛新聞 2004年4月6日掲載)