視点 オピニオン21
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高崎健康福祉大学教授 江口 文陽さん(高崎市倉賀野町)

【略歴】東京農大大学院博士後期課程修了(農学博士)。日本応用キノコ学会理事、日本木材学会幹事、県きのこ振興協議会顧問。日本木材学会奨励賞、日本応用きのこ学会奨励賞など受賞多数。

キノコの健康食品



◎表記の基準があいまい

 キノコを原材料とした健康食品が注目されていることから、『視点・オピニオン21』の読者の皆さまから「癌(がん)や生活習慣病に効くβグルカンの多いキノコは何ですか!」といった問い合わせを多く大学にいただきます。

 キノコの薬効成分は、一般的にβ―グルカンが主要なものであると思われがちです。その理由としては、日本人の死因の第一位である癌の増殖を抑制する物質がキノコの抽出物から見いだされた研究が展開され、マウスを用いた実験から生体の免疫機能を高めて間接的に抗腫瘍(しゅよう)作用を発揮した主要成分がβ(1、3)グルカンの基本構造であったことによるからです。従って、薬理効果があると考えられるキノコの抽出物やキノコの子実体(可食部)を販売する健康食品会社などは、「βグルカン含量の高い…」などといった、うたい文句で販売します。

 しかしながら、この言葉は科学的でないことが多いのです。なぜならば、その製品がどの種類のどの菌株のキノコに対して高かったのかという基準があいまいなまま、βグルカン量の多少を議論しているからです。例えば、「アガリクス茸(たけ)の何倍」と表記して差別化しようとしている商品がありますが、著者が酵素法で分析したアガリクス茸の中でも、βグルカン量は最高と最低の含有量に約九倍の差がありました。

 従って、どのアガリクス茸を基準に比較したのかを論じなければ、比較対照にはならない、ということなのです。さらに、βグルカン量の高いアガリクス茸とうたって販売されている製品とともに、他の任意の四製品(アガリクス茸)を購入し、酵素法を用いて分析したところ、βグルカン量の高いはずの製品は、低い方から二番目であり、その製品表示に疑問を抱いた経験があるのも事実です。

 現在、健康食品業界において、キノコを含む食品でのβグルカン量の定量には酵素法を用いることが多いのですが、この方法では化学構造的分類に基づくβ―D―グルカンを測定するものであり、多くの報道や市販の製品カタログに記載されている免疫賦活作用があるといわれている(1、3)(1、6)―β―D―グルカンそのものの定量ではなく、セルロースやヘテログルカンといったキノコなどの天然物に含まれる細胞壁を構成する成分のグルカン類を定量しているに過ぎず、定量値=薬効の高さとはならないということを、ご理解ください。

 キノコにはいろいろな生活習慣病の予防や治療に効果を発揮するものがありますが、それはキノコのもつ複合成分(β―グルカンなども含む多糖類、タンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなど)が人の体内でさまざまな形で働いて、病気の予防や治療へとつながるように生体細胞を保護・修復するメカニズムを持っているからです。ここに示した内容は、専門的で難しいと思いますが、キノコを正しく知っていただきたく、執筆いたしました。

(上毛新聞 2004年4月9日掲載)