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県立歴史博物館長 黒田 日出男さん(東京都練馬区)

【略歴】東京都生まれ。早稲田大卒、同大大学院修了。東京大史料編纂所教授、文学博士。第7回角川源義賞受賞。著書は『龍の棲む日本』(岩波新書)『謎解き 伴大納言絵巻』(小学館)など十数冊。

「群馬の鉄道」展



◎公共交通見直す契機に

 群馬に毎週来るようになって、自動車の多さを実感した。県庁のホームページを見ると、県民の自動車免許取得率、そして女性の自動車免許取得率が日本一とある。世帯当たりの自動車保有台数も第三位である。誰もが自動車を運転し、一家に何台もの車があるというのが県民の生活スタイルであるというのは、わたしにとって驚嘆すべき事実であった。

 しかし、そのことの半面として、公共交通機関の深刻な状況が浮かび上がっているに相違ない。案の定、群馬の公共交通は危機的状態にある。群馬の歴史や文化に肩入れしていこうと思っているわたしには、他人事ではない事態に見える。

 早速、わたしは幾つかのプランを考えてみた。例えば、県立歴史博物館と群馬の森に東京方面の人々をたくさん呼ぼう。群馬の森は素晴らしいし、歴史博物館と近代美術館もある。古墳などの見学もできる。東京方面の人々にとって魅力的な観光スポットになりうるだろう。そこで、鉄道でやって来る場合を考えてみると、新幹線で高崎駅に着き、そこから歴史博物館へ来るのでは、東京の人々にとってはお金がかかり過ぎる。

 むしろ高崎線で新町駅下車なら、赤羽駅から一時間十分強で着くし、料金も安い。そこからタクシーに乗れば十分前後である。新町駅構内のタクシーが、歴史博物館ないし群馬の森行きの人に特別割引をしてくれるサービスでもあれば、東京方面から歴史博物館に訪れてくれる人にとって朗報であろう。そうなれば、あとは観光情報をどのように発信し、東京方面に定着させることができるかである。なんとか工夫してみたいと思い続けているのだが、誰か応援してくれる人はいないだろうか。

 わたしのこうしたプランとは別に、歴史博物館では春の企画展として「群馬の鉄道」展を今月二十四日(土)から開催する。上信電鉄、上毛電気鉄道、わたらせ渓谷鉄道を中心にしているが、県内で開業した鉄道、路面電車、ケーブルカー、馬車鉄道のすべてを紹介する。ある年齢以上の人にとっては懐かしい歴史であろうし、鉄道ファンにも、子供たちにも知ってほしい歴史だ。

 近現代の群馬を生み出した鉄道の輝かしい歴史を振り返ることで、群馬の公共交通の未来を展望したいという試みである。これを準備してきた学芸スタッフの努力は大変なもので、豊富な資料が集まった。図録には群馬の鉄道史がぎっしりと詰まっている。

 二十一世紀の世界は、省エネルギー化の方向へと急速に向かっており、環境に優しい公共交通機関の役割が見直され、その重要性がクローズアップされている。この機会に、群馬の近代を生み出した鉄道を見直す気運が県民の中に生まれれば幸いである。

 もちろん、鉄道が大好きな老若男女にとって楽しめる催しなどが用意されている。親子連れで楽しめるイベントとして、群馬の森で一日をゆっくりと過ごすのもよいのではあるまいか。

(上毛新聞 2004年4月15日掲載)