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関東学園大学教授・附属高校副校長 高橋 進さん(足利市堀込町)

【略歴】東京学芸大卒。同大学院教育学研究科修士課程終了。日本体育学会、日本武道会などに所属。全日本柔道連盟専門委員で、谷亮子選手のトレーニングドクターを務めた。

子供の体力向上



◎楽しいと感じる環境で

 ご周知のように、改正小学校学習指導要領が平成十四年四月から施行されている。改正の大きな「ねらい」は、「児童の生きる力の涵かんよう養」を小学校教育全体でいかに推し進めるかである。あえて「生きる力」を掲げている理由は、残念なことであるが、昨今の子供を取り巻く環境や、残虐極まりない事件を垣間見れば、容易に理解されよう。

 ところで、その「ねらい」を達成するために、体育や健康教育がいかに重要であるかは、自明の理であろう。学習指導要領の総則に「学校における体育・健康に関する指導は、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に、体力の向上及び心身の健康の保持増進に関する指導については、体育科の時間はもとより、特別活動などにおいてもそれぞれの特質に応じ適切に行うよう努めることとする(後略)」と述べられていることが、体育・健康教育の重要性を端的に示唆しているからである。

 では、なぜ「体力の向上」などと、あらためて今回の改正にうたわれたのであろうか。実はある統計が、そのことを物語っている。

 平成十四年九月に中央教育審議会から答申された「こどもの体力向上のための総合的な方策について」をご覧になれば、「こどもの体力」を危ぐされない方はいなくなるであろう。特に、持久性の低下現象は誠に顕著である。いずれにせよ、昭和六十年を境に、子供の体力・運動能力は低下の一途をたどってやまないが、持久性の低下をかんがみれば、空恐ろしくもなる。

 平成十二年度に十二歳を迎えた女子の持久走(千メートル走)の平均と、昭和四十五年に十二歳であった女子のそれとを比較すると、いかに持久性が低下したかが一目瞭りょう然 ぜんである。何と二十五秒近くの開きがあることが示された。もちろん、親の世代の方が「持久性」に優れているわけだが、前述したように、この事実を深刻に受け止めないはずはなかろう。もっとも、昨今の子供の遊び方を見れば、この現象も仕方がないと納得されるかもしれない。外遊びは影を潜め、テレビゲームなどに精を尽くす子供は珍しくはないからだ。

 「持久性」ばかりではない。「柔軟性」や「調整力」についても、同様にその能力低下が叫ばれて久しい。特に、脳神経系の発育発達が顕在化する低学年のうちから、いろいろな運動に触れさせないと、いわゆる運動下手の子供になってしまう恐れは否めない。脳神経系の発育発達は、ほぼ十二歳でフルになるからだ。

 ただし、専門的なスポーツを偏ったやり方で行えというのでは決してない。子供のいわゆる「コーディネーション」の能力を引き出すようなさまざまな運動を、子供が楽しいと感じられる環境の中で行うことが理想的である。実は、柔道は「転がる」「相手を押す・引く」「バランスを取る」「相手の動きを察知する」など、実にさまざまな運動要素を含んでいる。当然、「持久性」も向上させ得る。柔道のみが万能というわけではないが、文化柔道の意義深い一側面であることに変わりはなかろう。

(上毛新聞 2004年4月20日掲載)