視点 オピニオン21
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おおたNPOセンター運営委員会副委員長
土橋 達也さん
(太田市岩瀬川町)

【略歴】大宮市(現在のさいたま市)生まれ。東京商科学院卒。会計事務所勤務の傍ら、太田青年会議所で魅力あるまちづくり実践特別委員長理事などを歴任。現在、太田まちづくりキャラバン隊顧問。

本物に触れる



◎感情養う学習こそ大事

 本物を見たことが、どれだけあるだろうか? 今では、テレビのブラウン管を通して、さまざまな映像を見ることが可能となった。ただ、そこには〈その場〉でしか味わうことのできない臨場感までは伝えることはできない。

 十数年前のことだが、当時、陸上短距離のスーパースターだったカール・ルイスが、東京で開催された世界陸上で当時の世界新記録を樹立した瞬間を見たことがある。私が国立競技場に着いたとき、男子百メートルの準決勝のスタート直前だった。スタンドは、世界各国から選ばれたアスリートたちの熱き戦いを見に来ていた人で超満員。その何万人もいるスタジアムが一斉に静まりかえり、指定席を探しているのに夢中だった私も、すぐにこの環境の変化を察知し、スタートラインに視線を向けた。

 スターターの合図で、きれいなスタートが切られた。おいおい、カール・ルイスは“びり”じゃないか? と思いきや、七十―八十メートル付近になると、一気にターボがかかったかのように加速し、悠々の一着。初めて見る私は感動と興奮で大はしゃぎだった。決勝には、当時の世界記録保持者のリロイ・バレルもいて、ルイスが勝つのは難しいと思われていたが、ルイスが優勝し、米国勢が金・銀・銅を独占した。スタジアムのオーロラビジョンには「New World Record」の文字が映し出され、スタジアムは割れんばかりの大声援で盛り上がった。

 なかなか、このような状況に遭遇することはできないものである。このときの感動が忘れられずに、本物を見るチャンスがあるときは逃さないように心掛けている。特にスポーツに固執しているわけではないが、大相撲、プロ野球、サッカー、テニス、ミュージカル、コンサート、祭り等々、どん欲にライブで見ていきたいと思う。

 プロレスもテレビで放映されるのは、メーンイベントを中心にせいぜい二―三試合程度。会場に足を運ぶと十試合は見られ、試合内容もさまざま。一種独特とした会場の雰囲気も堪能できる。大相撲にしても、テレビでは長く感じる仕切りが、国技館ではあっという間に過ぎていく。升席で食事をとりながら観戦していたら、ことさら早く感じる。野球やテニスは画面上では縦の動きが中心となるが、スタジアムでは横の動きを見ることによりスピード感が直接伝わり、より迫力を感じとることができる。

 コンサートでは会場とアーティストが一体になれる。祭りは見るだけではなく、参加して実際に神輿(みこし)や山車、お囃子(はやし)や踊りに触れてみると、また感動が変わってくるし、スタッフの苦労も分かる。水族館の水槽にいるイルカやクジラよりも、大海原を回遊している姿を見る方が何十倍も感動するのではないだろうか。

 とにもかくにも、本物に触れる機会は多ければ多いほどいい。幼いころから、さまざまな本物を見て触れて、五感を養うことも大切なことだと思う。机上の学習とともに感性を養う学習にも積極的に取り組みたいものです。卓越した人たちの妙技を肌で感じることができれば、本物に一歩近付けるのではないだろうか。

(上毛新聞 2004年4月21日掲載)