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群馬大学教授(地域共同研究センター) 須斎 嵩さん(足利市本城)

【略歴】足利市生まれ。早稲田大理工学部卒業後、1969年に三洋電機入社。大連三洋空調機公司董事長、環境システム研究所長などを経て、2002年4月から現職。中国ビジネス研究会世話人。

東アジア



◎一つの大きな経済圏に

 春めきとともに、わが国の景気も蕾(つぼみ)が過ぎて花が咲くようになってきました。自治体の税収入も、工場や研究所の投資で増えてきたようです。その牽引力(けんいん)は、自動車の海外輸出とデジタル家電の伸張、そして中国の特需であるといわれています。

 少し前までは中国の低賃金労働力が、日本の高い失業率の原因とデフレ要因をもたらしたといわれ、「中国脅威論」ばかりが主張されてきましたが、日本経済の回復とともに「中国の特需による経済潤い論」になってきました。しかしながら、経済の移り気に浮かれていては駄目で、しっかりとした認識を持つ必要があります。

 幸いにもデジタル家電や自動車のみでなく、イチゴ、リンゴ、ミカンなどの高級農産物の輸出も好調であるのは、日本の企業や農家が商品開発力を生かして、日本の消費者の厳しいニーズや嗜しこう好を満足させ、アジアや中国人のニーズに合った製品を供給しているから、と考えています。

 昨年、北関東地域の企業の方と中国ビジネス研究会を立ち上げましたが、中国とのビジネスの進め方を間違わないように、会員全員で研究をする会です。五月二十日には、高崎市で四回目のセミナーを開催するところになりましたが、経営者の方や大学教官から多くの経験に基づく講義やビジネスの相談をしていただいています。

 単に、中国やベトナムなどに安い労働賃金を求めて進出する時代ではなく、韓国、台湾、マレーシアなどを含めた一つの東アジア経済圏が形成されていると認識し、おのおのの国や地域の特徴や強みを生かし、補完する時代になってきたと思っています。特にわが国の経済が好調になってきたときこそ、しっかりとしたグローバル戦略の考えを持つ必要があります。

 中国に行くと、日本企業が多くの研究開発の費用と汗水垂らして生産した製品の偽ブランドやデザイン品が、所狭しと陳列されています。中国やアジアの事業においては、それらを防御するための特許等の知的財産管理が要であることを認識することであり、また、主要技術をブラックボックス化して技術流失を防止することです。

 もうひとつは、優秀な人材確保です。わが国では、働くことにも学ぶことにも意欲を持てない二十五歳以下の若者が七十万人ぐらい存在するといわれています。新しい人間関係をつくりながら、意欲のある優秀な人材の育成をすることが必要な時代です。

 また、中国などの留学生は、日本人以上に一生懸命に勉学に励み、日本から多くのことを吸収し、帰国する学生のクオリティーは大変高いと思います。留学生は希望しても日本企業に採用されにくいのですが、思い切って社員として採用することも重要な気がします。

 東アジアは、大きな一つの経済圏になっていくと考えられますが、そのような時代こそ、日本の良さ、群馬の良さ、すなわち「群馬の顔―アイデンティティー」を考えて、世界に売り込んでいくことが重要と考えています。大学も「グローバルな考えで、地域に根ざした行動」が大切です。

(上毛新聞 2004年4月27日掲載)