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豊泉産婦人科・上中居こどもクリニック院長
豊泉 清さん
(高崎市上中居町)

【略歴】高崎高、群馬大医学部卒。同大で産婦人科学を研修し、1980年に産婦人科医院を開業。現在、日本ペンクラブ会員、日本医家芸術クラブ文芸部会員、高崎東ロータリークラブ会員。

ロータリー世界大会



◎“下手の横好き”役立つ

 私は、高崎市田町で江戸時代から続いている緑茶小売商の老舗の一族だから、幼いころから緑茶は身近な存在だった。起き抜けにまず濃い緑茶を一杯飲んでから、一日の活動を始める生活習慣がすっかり身に付いている。

 茶道の元祖である千利休が「その道に入らんと思う心こそ我(わ)が身ながらの師匠なりけれ」という和歌を詠んでいる。茶道を学びたいという弟子の意欲こそ、何にも勝る最高の師匠である。師匠は弟子の心の中に住んでいる…と解釈できる。学習とは学ぶ者の自発的な意欲が出発点という万古不易の教育哲学の真髄をずばりと突いている名言だと私は評価している。

 話題が少々飛躍するが、相反する内容の慣用句がある。例えば「好きこそ物の上手なれ」に対して「下手の横好き」という言葉もある。人は誰でも好きだと感じて始めたことには真剣に取り組むから上達も早い。しかし、本人は好きで熱中して上達したつもりでも、第三者が客観的に見て「実力は大したことないね」と判断する場合もあり得る。

 私は学生時代にシャンソンやアルゼンチンタンゴに熱中した一時期があった。外国語の歌に耳を傾けて「歌詞の意味が分かればなあ…」と思ったのが契機となって、フランス語やスペイン語の入門書を買い込んで独学で手を出してみた。開始の動機こそ「その道に入らんと思う心こそ…」という意気込みだったが、飽きっぽい性格が災いして一向に上達せず、“下手の横好き”の段階で終始したまま、結局ものにならなかった。

 私は高崎東ロータリークラブの会員である。ロータリークラブは世界の百六十余カ国に約百二十万人の会員を擁する国際的な民間奉仕団体である。毎年、各国の持ち回りで世界大会を開催し、世界中から万の単位の会員が一堂に会する。私は外国で開催された世界大会に何度も個人的に参加している。諸外国の未知の会員と個人的に親睦(しんぼく)を深め、友好の輪を広げる絶好の機会である。

 旧フランス植民地から独立したアフリカ諸国はフランス語が公用語であり、南米諸国はスペイン語が公用語である。ロータリー世界大会の会場で、アフリカ諸国の会員とフランス語で、南米諸国の会員とスペイン語で歓談する機会に恵まれた。“下手の横好き”でも、時には妙な所で結構役に立つこともあるから、まんざらばかにしたものでもない。千利休の稽古(けいこ)事に関する教訓は現代社会でも立派に生きている。

 私は海外会員との個人交流に基づく相互理解を組織の基盤と位置付け、ロータリー活動の重要目標としている。今後も“下手の横好き”を承知の上で、草の根の一会員の立場で微力ながらロータリーの国際奉仕活動に貢献できれば…と念じている。

(上毛新聞 2004年5月2日掲載)