視点 オピニオン21
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主婦 大谷 幸枝さん(新里村鶴ケ谷)

【略歴】群馬大学芸学部卒。県内の小中学校で38年間、教職に就く。退職後、食品の安全性への問題や環境ホルモンの影響などについて、生活協同組合(コープぐんま)を中心に広報活動を行っている。

途上国の森林激減



◎これでは加害者になる

 今年になって、NGO(非政府組織)で活躍している素晴らしい若者たちと出会ったことがきっかけになり、以前から気になっていた世界の森林減少の原因や現状を調べてみました。

 もう二十年以上前から、森林の無計画な伐採による自然破壊への歯止めや、植林の重要性を各国が提言していましたが、現在も森林は減少し続け、地球上に荒廃した土地が増え続けています。特に開発途上国と呼ばれている、貧富の差が激しい東南アジアや南アメリカ等の国々では、外資を得るために換金できる作物生産の必要に迫られ、広大な熱帯雨林を失ってしまいました。これは、地球規模の損失です。

 熱帯雨林や広葉樹林は、特に地球温暖化を和らげ、気候変動の調整に役立っています。雨水を保存し河川の水量を安定させ、土砂流出や山崩れ等の災害を防ぎ、農地や漁場を守る重要な働きをしています。森林が減れば、それだけ人間も生き物もすみにくくなります。

 ところが、この森林激減の原因を調べていくと、胸の痛む現実にぶつかったのです。まず、フィリピンの森林は日本企業の目先の利益のための進出によって、多くが消えていきました。

 日本は国土が狭い割合に人口が多いので、コスト高の国内の木材パルプ、食料等よりも他国の安い物を選び、次々と途上国の森林を消失させていきました。しかも、日本政府が行っているODA(政府開発援助)のうちの有償援助が、高利のうえ規定が厳しく、貧しい国々は自国の産物を輸出するしか借金を返す手段がない状況に陥っているのです。

 地主の広大なバナナ畑で働く貧しい人々は、目の前のバナナを見ながら飢えに苦しんでいるそうです。何ということでしょうか。

 マレーシアのサラワクの森林も、そこに住む先住民を無視したやり方で伐採され、巨大なパームヤシのプランテーション(単一栽植大農園)が次々とでき、劣悪な労働条件のもと、先住民等が酷使されています。多国籍企業の大資本に押しつぶされて苦しむ人々は、そこを「緑の監獄」と呼んでいるそうです。死ぬまで、そこで働かなければならないからです。

 このパーム油の最大消費国が日本なのです。日本人の大好きなエビも、養殖するために広大なマングローブの森が切り倒されました。日常飲んでいるコーヒー、紅茶、ココア、香辛料のコショウやバニラ等、スーパーにあふれる果物もブラジル等の森林をプランテーションにした結果の産物なのです。

 真っ白で柔らかいテッシュやトイレットペーパー、使い捨ての紙コップや皿、割りばし、プリンターから出てくるおびただしいA4の白紙等、食料以外の森林資源を浪費している日本の人々は、これらの便利さに甘んじ、働いた金で買うのだからと割り切るだけでいいのでしょうか。私たちは知らないうちに貧しい国々への加害者になってしまい、このままでは未来の子供たちを被害者にしてしまう気がしてならないのです。

(上毛新聞 2004年5月7日掲載)