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前副知事 高山 昇さん(前橋市六供町)

【略歴】前橋高、東北大大学院文学・経済史修了。1962年県入庁、職員研修所長、広報課長、農政課長、農政部長、総務部長などを経て95年10月から副知事。2期8年を務め、昨年10月に退任。

二つの事例から学ぶ



◎横糸を通し自ら始める

 今、私たちに求められている姿勢、考え方は、個人・地域社会そして国として、まず「横糸を通す」ことである。例えば、品質管理するのは特定の部門、人だけでなく、一人ひとりが一人称で考え、責任を負っているといえるだろう。そして「外」(周囲の環境や他者)に原因を転嫁するのでなく、「自分から始める」ことである。

 さらに、決まった量しかないのだから、誰かが取れば自分の取り分が少なくなるという「勝ち・負け」の考え方でなく、誰もが満たされるだけの量があるという「勝ち・勝ちを考える」ことではないかと思う。

 しばらく前のことであるが、ある新聞で「ニッチ(すき間)メーカーでいつづけたい」と富士重工業の竹中社長が話されている。大手は量で勝負し、価格競争するが、私たちは「価値競争」つまり量より価値で評価される道を進む、という。そして水平対向エンジンと四輪駆動という走行性能を重視した技術で「レガシイ」を全面改良(75%以上を新しい部品に変える)して「新型レガシイ」を生み出している。

 また、シーズンになると、利根沼田には多くの家族連れ、観光客が憩いや自然体験を求めて訪れる。その一つが「フルーツランドいけだ」(田村彦一会長)である。古くから栽培されてきたリンゴにブドウ、ブルーベリー、サクランボが加わって、それぞれ組合がつくられ、全体としてしっかりとした、まとまりを持つ活力ある組織となっている。年を重ねるごとに大きく育っており、評価も高い。今年も年間を通じて多くの人々が訪れ、自らの手で作物に触れ、自然の法則を体感することであろう。

 この二つの取り組みから考えるのであるが、今問われているのは、新たなものをつくり出す創造力であると思う。創造とは、今までなかったものを新たにつくり出すことであるが、それは「要素や構造の組み合わせによって、新しい機能を果たすものをつくり出すこと」(畑村工学院大学教授)と定義できるという。

 さらに、畑村教授は「人は何もないゼロの状態から創造物をつくり出すことはできない。模倣を行い、マニュアルを使いながら、そこに先人の知恵を理解した人が創造できる」と言う。そして「要素を組み合わせて構造化するには、いくつかの共通のパターンがある。入り口と出口を逆にしてみるとか、算数の加減乗除の発想を利用したり、大きくしたり、小さくするなどは新しいものを生み出す有効な方法である」と説いている。

 確かに、「レガシイ」は過去から引き継がれた英知と技術に基づいて生み出された「成果」であり、「フルーツランドいけだ」は、サクランボなどを加えたことによる地域ぐるみの「創造」であることを教えてくれる。

 これからの時代、私たちが心掛けなければならないことは、横糸を通して自分から始め、「勝ち・勝ち」の姿勢、考え方で、それぞれの個性(特色)や強さを確認し生かしていくことであり、それが自律への道であると思う。

(上毛新聞 2004年5月13日掲載)