視点 オピニオン21
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日本精密測器会長 清水 宏紀さん(高崎市下豊岡町)

【略歴】高崎高、群馬大工学部卒。1963年に日本ビクター入社、オーディオ事業部前橋工場長、常務取締役、専務取締役AVマルチメディアカンパニー社長などを歴任。タムラ製作所取締役。昨年6月から現職。

感動の再生



◎音にとって響きは命

 長年、オーディオの仕事に従事しているので、多くの方々から、よい音について聞かれることが多い。聞いている本人もかなり詳しくて、雑音や低高音のバランスというような分かりやすい話から始まって、音の透明度、混変調、さらには過渡応答などという専門用語を話す音好きもかなりいる。そんな人たちに対し、いつも「よい音とは、響きのある音だ」と答えることにしている。

 音は、声や楽器そしてスピーカーから出て、空気を震わして空気の波となって広がっていく。この波は、温度でも伝わる時間が変わるが、いろいろな物に反射して人の耳に伝わる。どこにも反射せず直接耳に伝わる音(直接音)に対し、一回の反射で伝わる音、二回の反射で伝わる音は、それぞれが耳への到達時間が少しずつ遅れる。直接、音に第一、第二、第三の反射音が重なると、残響となって音に響きを増す。よい音楽ホールでは、この残響の時間を巧みにつくり、聴衆が音楽の響きの中に包まれる感動のホールとなるよう工夫している。

 日本のホールは、講演会などと音楽とを同じ所で行う他目的ホールが多いため、残響を嫌う講演会との折衷案で、一秒以内の残響のホールが多い。そんな中で、音楽専門ホールとして有名なサントリーホールでは、中低音で二・三秒、高音で一・三秒という長い残響をつくり上げているのも、音楽における残響の重要性を十分理解しているからであり、ワインヤード型の座席レイアウトと相まって包まれる感動音楽の再生を期している。

 機会があって、欧米の多くの教会を訪ねた。パイプオルガンが奏でる重低音が、腹にずっしりと響き、聖歌の声が響きを伴って私たちの身を包む。至福の時である。ステンドグラスが映し出す色彩の楽しさや、ゴシック建築の素晴らしさに加えて、教会には残響の巧みな研究が施されているに違いない。

 一方、再生音楽の原点は、オルゴールにあるように思える。オルゴール誕生二百年の一九九六年に、誕生の流れを継ぐ会社リュージュを訪ねた。スイス・ジュネーブのかなり山の中の小さな町にある。町が博物館を造り、オルゴールの歴史をとどめ、ムーブメント(ピアノの鍵盤のような音の出るメカニズム)の職人を生み出し、町全体で会社を支えていた。一つ一つのムーブメントの響きをドライバーで耳に当て調整する姿はまさに匠(たくみ)の世界、一球入魂の姿であり、さらにムーブメントの小さな音を素晴らしい音に変える木の響きの伝統的な技があった。

 やがて、オルゴールは蓄音機に継承される。一九二○年代の名器クレゼンザーの音を時々、自宅で聴く。人の声の再生は素晴らしく、木の響きの優しさがたまらない。まさに蓄音機の音も、木の響きに依るところが大である。

 現在のデジタルオーディオでも響きの研究が盛んで、世界的に有名なシンホニーホールの残響の実態を測定。IC(集積回路)に記録して、あらかじめ作られた残響時間を音楽に付加して再生する。残響時間のほとんどない自宅でも、シンホニホール並みの響きとなり、居ながらにしてベルリンやミラノのホールで聴いた感じとなる。音にとって響きは命であり、文字通り、音の故郷と書いて響きである。

(上毛新聞 2004年5月17日掲載)