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東京大学社会科学研究所教授 大沢 真理さん(東京都文京区)

【略歴】渋川市生まれ。東京大経済学部卒。ジェンダー(文化的、社会的に形成される性差)問題の第一人者で、内閣の男女共同参画審議会委員などを歴任。現在、東京大社会科学研究所教授。

年金制度



◎政治は改革を怠るな

 政治家の国民年金未加入・未納問題の止めどない広がりによって、年金不安どころか政治不信が頂点に達している。そのため、制度が抱える問題と、その抜本的な改革のための議論も吹き飛んでしまった。だが、政治不信から選挙を棄権すれば、与党の政治家たちは改革を怠るばかりだろう。

 年金制度が抱える最大の問題は、「空洞化」である。この点について、労使は「自営業者や学生の第一号被保険者が悪い」と口をそろえている(いまは政治家の問題というかもしれないが)。しかし、昨今では第二号(サラリーマン)から第一号に移る人が毎年三百万人から四百万人にも上る。リストラされたり、非正規に変えられたためで、この層の未納率や非加入率が高い。雇用主によるリストラが、年金制度全体をむしばんでいるのだ。

 また、パートや派遣だけでなく、スモールオフィス、一人請負などの「非典型」雇用は、知識経済化の進展とともにヨーロッパ諸国でも増えている。日本でも本格的に知識経済化が進めば、新しい自営業が増えるだろう。さらに、人生のその時々の段階で、雇われている、自営である、あるいは大学に再入学して勉強しているなど、働き方が多様になるはずだ。サラリーマンから議員になり大臣になったような一握りの人々だけでなく、多くの人の生き方や働き方が変遷し、その間に分立した制度のすき間に落ちて、未加入・未納問題を起こすことになる。

 この時代、年金を就業の形態で分ける現在の制度では対応できない。成長が回復して知識経済化が順調に進むという「ハッピーシナリオ」でも、不景気が続いてリストラの嵐が吹きやまないという「アンラッキーシナリオ」でも、現行の制度体系では空洞化が進む。

 そこで、金子勝慶大教授、神野直彦東大教授とともに私が提唱しているのが、「スウェーデン方式」プラス「夫婦間の年金分割」である。つまり、全国民が一つの年金制度に入り、所得に比例した保険料を払って、払った保険料総額に比例した年金を受け取る。低所得だった人には、最低限の保証として「ミニマム年金」を支払う(財源は一般財源)。

 一方、夫婦間の年金分割とは、例えば夫が五十万円稼いで妻が専業主婦の場合は、それぞれ二十五万円ずつ稼いだものと見なす。夫の所得が三十万円、妻が二十万円の場合にも、合算して二分するので、それぞれ二十五万円ずつとなる。世帯で見れば、保険料も将来もらう年金額も変わらないが、夫婦が二人三脚であることが目に見える形にするわけである。

 住宅保障や介護・保健医療サービスが充実し、老後の生活の安心が確立されれば、年金として受け取る現金はそれほど必要なくなる。都市、住宅の環境やサービス給付の充実しているスウェーデンの年金は、個人で見ても世帯で見ても、現役世代の手取り賃金の38%にすぎない。医療や介護を含めた社会保障制度を全体として議論することが欠かせないのである。

 今後百年は維持できる制度を超党派でデザインする責任が政治にはあるが、その責任を果たさせるためにも、いまの与党を安穏とさせてはなるまい。

(上毛新聞 2004年5月28日掲載)