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京桝屋 三桝 清次郎さん(白沢村上古語父)

【略歴】沼田市生まれ。本名・角田清次郎。3歳で歌舞伎の子役としてデビューし、16歳で義太夫語り、義太夫三味線奏者として初舞台を踏む。昨年から県教育文化事業団が主催する実技講座の講師も務める。

義太夫修業



◎人間諦めたら終わりや

 県教育文化事業団からお話をいただき、あす五日の「県民ふらっとコンサート」に出演させていただくことになりました。また、おこがましくも『曾根崎心中』の「天満屋」を私が語らせていただき、三味線を私の門下の旗二郎が弾くことになりました。そして、去年の十月から事業団の義太夫講座の講師で伺うようになり、はや八カ月、受講者の四人が天神森にて義太夫を語れるまでになりました。

 この演目はご当地、群馬県にはあまりゆかりのないものですが、近松門左衛門の書いたもので、心中物としては最も有名なものの一つです。文楽では度々、上演されています。

 『曾根崎心中』は実際にあった物語です。「世話狂言」といわれ、一般の庶民を題材に書かれ、聞いていると「こんなこと、あるよな」なんて思えるような演目です。なかなか皆さまにおかれましては、義太夫と聞いても分からないとか、難しそうなんてお思いでしょうが、ぜひ一度聞いていただきたいと思います。

 義太夫は、今では古典と言っていますが、何ら普通の芸と変わりません。この「ふらっとコンサート」では「素浄瑠璃」をさせていただきます。簡単に説明しますと、俳優さんもお人形さんも出ないで、太夫と三味線だけで行うものです。それゆえに、われわれ舞台を務めさせていただく者は大変難しいのです。

 また、都合の良いこともあります。それは聞いていただいている方が、さまざまな想像をしながら聞けることなのです。舞台とご見物人で作り上げるようなものです。よいなと思ったら拍手してもよし、声を掛けるのもよし、われわれはそういったことがすごく励みになり、普段できなかったことができたりするものなのです。舞台に上げさていただいている者は「ご見物人ならびに関係者各位に育てていただいている」と言っても過言ではないのです。

 このたび、事業団の大平理事長さんに「近松恋物語」という素晴らしいサブタイトルを付けていただきました。このタイトルに負けないよう必死で稽古(けいこ)をしてきました。受講者の四人も真剣です。時には怒鳴られながらやっています。なぜなら、私は小さくまとまってほしくないのです。「人間諦(あきら)めたら終わりや」と思います。中には、今回出られない人もいるのです。こうやったら結果が出るといったものがないのです。一つできたら、また一つと、地味な修業ばかりなのです。

 今回出た人はこれに満足し自分の力量を過信することなく、出られなかった人はこの悔しさをバネになお一層けいこに励んでいってもらいたい、と切に願っております。そして私のできることは、この衰退している義太夫に一人でも多くのご見物人にお足を運んでいただけるよう、頑張ることであると思っております。

 こんな私ですので、皆さまのお力をぜひ貸していただきたい、と思っております。私を見かけましたら、気軽にお声を掛けていただけたら幸いです。若いお客さまにも分かりやすく精いっぱい努めさせていただきますので、よろしくお願いします。興味のある方も、ぜひ気軽に話しかけてください。

(上毛新聞 2004年6月4日掲載)