視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
高崎健康福祉大学教授 江口 文陽さん(高崎市倉賀野町)

【略歴】東京農大大学院博士後期課程修了(農学博士)。日本応用キノコ学会理事、日本木材学会幹事、県きのこ振興協議会顧問。日本木材学会奨励賞、日本応用きのこ学会奨励賞など受賞多数。

機能性キノコ



◎食効など正しい理解を

 本年四月に「アガリクス茸たけ(ヒメマツタケ)による劇症肝炎死」という記事が新聞や週刊誌などで報道されましたが、一連の記事に関するアガリクス茸と劇症肝炎死の因果関係は明確ではありません。

 それは、飲食された方の医学的臨床検査情報が不明確(肝炎等の既往歴や他の薬物や食品などとの相互利用の事実の開示などが明らかでない)ばかりでなく、アガリクス製品をどのくらいの期間、どの程度の用量で飲食されたのかといった情報や、その製品と劇症肝炎との直接的因果関係を明確にする臨床評価や培養細胞などを用いた関連性を判定する試験報告などの成績が明確にされないまま、「劇症肝炎死」といった死因のみがクローズアップされているからです。

 このような因果関係が明確でない情報の発信は、キノコ類の生産農家や関連業界の経営にとっても悪影響を及ぼすものであり、真の意味での安全性を追求してキノコの研究を推進する者として大変、遺憾に感じています。

 筆者はこれまでに、キノコ類を中心とした安全性試験(一回の過剰摂取や連続的な摂取による身体への影響)や、医薬品および他の食品との相互作用などに関する動物や細胞を活用した研究を行ってきています。殊に、アガリクス茸は多くの乾燥品や加工した製品をサンプルとして詳細な動物実験を行いましたが、劇症肝炎の症状を示すような血液検査値や解剖(病理学的)所見をキノコの抽出成分から確認したことはありません。

 アガリクス茸の安全性評価のための過剰摂取を想定した急性毒性試験では、キノコから得た熱水抽出物を一キロの体重当たり、二千ミリグラム摂取させても死亡するラットは確認されませんでした。さらに、血液成分分析による肝機能値であるAST(GOT)、ALT(GPT)、γ―GTPや、炎症所見を評価するLDH(乳酸脱水素酵素)、CRP(C反応性タンパク質)の値は、キノコのそれを摂取させなかったコントロールと比較して、科学的統計解析からも何ら変化は認められませんでした。

 また、解剖学的な観察においても、食道、胃、肝臓および腎臓などの臓器の炎症や細胞学的変化などはありませんでした。この試験成績と同様な結果が、慢性的に連続投与した試験群のラットでも観察されています。

 アガリクス茸の一連の情報をはじめとして、近年、機能性キノコとして注目されている多くの食用キノコは、そのキノコ自体の特色や食効が正しく理解されないまま、科学的根拠なしに病気の予防や治療の効果面のみが一人歩きします。

 その情報をいかに活用し、健康食品(キノコ)と上手に付き合うのかは消費者であり、その飲用飲食の善しあしは、本人の自己責任で判断することが不可欠ですが、疾患の治療のために医師からの薬剤が処方されている方の場合は、主治医や薬剤師さらには食品の専門家である管理栄養士らとの情報交換や相談を怠らないことが何よりです。

(上毛新聞 2004年6月15日掲載)