視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
群馬大学教授(地域共同研究センター) 須斎 嵩さん(足利市本城)

【略歴】足利市生まれ。早稲田大理工学部卒業後、1969年に三洋電機入社。大連三洋空調機公司董事長、環境システム研究所長などを経て、2002年4月から現職。中国ビジネス研究会世話人。

2人の経営者から学ぶ



◎リーダーの育成が必須

 素晴らしい業績を挙げている企業は、必ず経営トップの人間力を感じる。瀕ひんし死の状態の日産自動車の改革と改善の指揮を執り、目を見張るほどの経営内容にしたカルロス・ゴーン社長こそ、まさしく経営の基本と組織のリーダーたる者の模範を示しているような気がします。

 彼は「日本人の気性が自分たちの強みより、弱さに注目しがちであること」を十分に知りつつ、人材の優秀性、組織への忠誠心、高い技術力を有していることを考えて、中堅社員を中心に部門間を超えた「リバイバルプラン」を作らせた。そして、その計画が未達のときは、自らが責任を取ることを宣言している。まさしく言い訳などをしない改革の模範リーダーたるオーラが漂っています。

 さらに、改革のスピードを上げるために「組織全体で情報の共有化を図り、成果を早く出し、全員が自信を得ることが大切」と考えて、改革の進しん捗ちょくを明らかにしてきた。社員から業績の回復の実を十分得ていないという声を聞くと、空前の利益を出しても横並びの回答だった同業他社を気にせず、「忘れてはならないのは社員の感情」として、今春の賃上げでは満額の回答をした。また、「やる気」と「潜在力のある」若い人に対して、机上でなく実践で学ぶことが大切として、厳しい競争の中に放り込んで経営者への育成をしている。

 韓国のサムスングループは、二代目会長の李健●氏の強力なリーダシップと卓越した先見力により、世界のトップ企業に躍り出た。半導体、cdma携帯電話、液晶表示機器など世界トップシェアの商品を多く創出させた。彼は創業者の父と同じく早稲田大学に留学し、その後にアメリカのジョージ・ワシントン大学のビジネススクールで学んだ。まさしく日本の良さとアメリカの競争社会のダイナミズムを習得していた。

 彼は大変、慎重な経営を行った。日本の半導体メーカーで勉強した技術者たちが同じ飛行機で帰国したときに、「もし、飛行機事故があれば、すべての技術がなくなる」と社員を大変しかった。経営者としての高い精神力を持ち、「始まる前に十分、終わってから十分間」を仕事の準備、整理をすることを説きながら、経営は理論でなく体験であり、勘であると言っている。また、「木鶏の教訓」は有名で、他言など気にせずに、それを聞いても平然といられる精神を鍛錬した。丸木で作った鶏のように無為自然でいられる肝胆が重要であると強調している。

 二人の経営者には、リーダーとは他に依存せず、自らの責任を取ることを明言した上で、人を大切にする精神が根底にあるような気高さを感じる。最近、わが国でも「武士道」精神の書籍が売れ始めているが、まさしく日本人の精神の鍛錬、修行が必須であることを暗示しているようであり、日本人のリーダー精神の教育と高揚を期待する。

 組織のリーダーにとって肝に銘じてほしいことは、その組織が多くの人の人生の重要な部分を送る所であり、志を持たせ、人の能力を引き出し、人間を守っていくことを示すことではないかと考えている。

編注:●は「ニスイ」に「煕」の「巳」が「己」

(上毛新聞 2004年6月22日掲載)