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高橋農園社長 高橋 喜久男さん(宮城村市之関)

【略歴】1983年、会社を辞め農業を開始。チンゲンサイの周年栽培を確立し、96年に有限会社化した。2000年に出荷調整施設を新築し、効率的な作業を実現。1社で宮城村をチンゲンサイの産地にした。

食料自給率の向上



◎遊休農地を活用すべき

 梅雨時は湿気が多く、不快な毎日が続く。しかし、この梅雨があるため、日本(一部地域を除く)は夏至のころ、すなわち太陽が一番近く強いころの日差しを避けることができる。ところが、われわれの農業(耕種農家)は太陽の光が不可欠だ。植物が光合成を必要としているからである。「干ばつに不作なし」といわれているように、長雨は耕種農家にとって致命的な問題となる。

 近年、雨よけのビニールハウスが普及し、周年栽培が可能になった。本来、梅雨時には栽培できなかった農作物が、ビニールハウスの中で弱い日差しを受けて育っていく。これを手塩にかけて育て、消費者に届ける。それが、われわれ農家の使命である。しかし、このように育った野菜も、生産コストを下回る値段で取引されてしまう。寂しさと残念な気持ちで、あすの出荷に期待して精を出す日々である。

 政府は食料自給率45%に目標を置いている。ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアの大規模農業国、さらに中国や他の国々からの輸入農産物に対抗するには、わが国では大変厳しい状況にある。しかし、「衣食住」の基礎となる食であるから、われわれ農家にとっても日本国民にとっても、農業は何が何でも消滅させるわけにはいかない。とはいえ、農業を継続していくには、昔ながらの方法では厳しくなっている。これからの農業は効率的で創意工夫が必要だ。現代的な農業に取り組まなければ、生き残ることは困難である。

 さらに、農産物の流通経路が複雑で、生産者と消費者にとっては非効率的と言わざるを得ない。生産者が作った野菜は、まず地域のJAに集められ、県全農から全農本部を経由して大都市の中央市場に出荷される。市場には仲買人がいて、それを競り落とし小売店や飲食店に卸す。従って、産地から消費者の手に渡るまでには、少なくても五つの段階を通ることになる。

 大市場では、各種野菜をまとめて買う仲買人から特定の野菜を分けて買う二次仲買人(中卸)が介在する場合も多い。そのような場合には、流通経路はさらに増えて六段階になる。いずれの場合も産地のJAから直接市場に運ばれるが、伝票だけが県全農と全農本部を経由する。これは、現物が急行列車で市場に届き、伝票だけが各駅停車で運ばれて、停車駅ごとに料金(マージン)がとられるような仕組みだ。

 消費者にとって、農産物の値段が非常に高く、生産者も手取りが法外に少ないのは、こうした物流機構の複雑性、非効率性があるからではないか。また、日本の食糧自給率はカロリーベースで40%といわれている。これは、十日のうち四日分しか自国で賄えないことを意味する。

 食糧自給率が低いのは、国土が狭いうえに平地が少なく、国民一人当たりの農地面積が極端に小さいというハンディがあることも事実である。しかし、現実はたくさんの遊休農地が点在している。この農地を活用すべきである。農作物の安定供給につながり、食料自給率を50%にすることも可能ではないか。

(上毛新聞 2004年6月23日掲載)