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前橋工科大学教授 遠藤 精一さん(神奈川県鎌倉市)

【略歴】東京・四谷生まれ。早稲田大理工系大学院建築計画専修を修了後、槙都市建築総合計画事務所に入社。1974年にエンドウプランニング一級建築士事務所を設立し、98年から前橋工科大学教授。

建築と環境の在り方



◎社会で考える仕組みを

 建築がもたらす価値の中で、最も分かりやすいものは利益をもたらす経済的価値である。そして、最も分かりにくいものは、生活文化的価値であろう。

 経済的価値は、建設するために必要な資金と出来上がった建物がもたらすであろう経済的収入を計算して、比較すれば容易に想定できる。しかし、実はここに問題がある。経済的効果を顕著に出すためには支出、つまり建物のコストを引き下げる必要がある。

 建築コストの引き下げを達成するには、無駄を省き、材料の有効利用を図り、材料、工法の新技術の開発も重要な鍵として働く。しかし、問題はこの改革が人間の生活環境にとって望ましいかの結果が見え難い。

 通常、一般の耐久消費財では、過当競争によるコストダウンが品質の低下を招き、消費者の反感を買う。しかし、建築では量産品が自然素材に変わっても、目に見える形では出にくい上、外見上変わっていないように工夫される。その結果、建物の物理的性能は上がっても、人の心を引く魅力は目に見えてやせ細っていく。

 わが国では、土地の比重が高い分、建設戸数を多くしなければ経済的に成り立ちにくい。ここに建築の消耗品化の流れが生まれる遠因がある。古い価値が、そこで生活する人々にとって望ましいと感じられても、その価値を持ち続けることが経済的に難しい。

 しかし、本当にこの新しい建築の選択が賢いかどうかは、時間がたたなければ分からない。数字で表される価値は、条件が変われば全く意味を持たなくなる。人が大切にしている価値は数字では表し難いが、年月を経ても、その価値は少しも目減りはしない。世界の魅力的な街並みが、洋の東西を問わず、街を愛する多くの人々によって支えられている事実に気付く必要がある。

 家を大切にしている人々が多く集まれば、街は確実に魅力的になる。われわれもこの当たり前の価値感を一人一人がしっかり持って、社会へ主張する仕組みを持たなければ、永遠に文化的価値を生活環境に持てないことになる。新しい価値と古い価値のバランスは難しいが、社会として、古い価値を持ち続けなければ、魅力ある街は生まれない。

 高崎では歴史的な環境を、市民と建築家のボランティア活動で、支えていこうとする運動が始まろうとしている。また、前橋工科大学ではこの価値を見つけ出す仕組みとして、既存の古い木造建築を教材として、この建物を大学のセミナーハウスに造り替えるために、市民の技術者の方々に学校で技術指導していただき、学生たちの手で新しい価値をつくり出そうとする試みが、ワークショップの授業でスタートした。

 自分たちの宝物は何かを社会で考える仕組みを、そろそろこの辺で確立していきたいものである。

(上毛新聞 2004年6月24日掲載)