視点 オピニオン21
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県スポーツ振興事業団事務局長 海野 俊彦さん(伊勢崎市福島町)

【略歴】旧伊勢崎高、日本体育大卒。伊勢崎商高、伊勢崎工高などで陸上競技部指導。県高体連理事長、藤岡高教頭、太田東高校長などを歴任、県教委文化スポーツ部参事を務めた。伊勢崎市陸上競技クラブ会長。

ドーピング検査



◎明るく公正な競技を

 今年はオリンピックイヤーです。一八九六年の第一回大会以来、百八年ぶりに再びアテネで開催されます。本県選手を含めた日本代表選手や世界のトップアスリートの活躍は、多彩な感動や話題を提供してくれるでしょう。半面、勝利への強い欲望のあまり、不正なドーピング行為により実力以上に競技力を高めようとする選手の出現が懸念されます。

 米国では、現在もスーパースター選手による最先端の筋肉増強剤「テトラハイドロゲストリノン(THG)」の使用疑惑が話題となっています。また、ソウル五輪では、男子百メートルでベン・ジョンソン選手が9秒79の世界新記録を樹立して優勝したにもかかわらず、検査の結果、陽性反応となり金メダルはく奪、記録抹消となったことが脳裏に浮かびます。

 ドーピングの歴史は古く、一八〇〇年代に競走用の馬や犬に興奮剤を与えていた例や、アムステルダムの運河水泳の選手にドーピングがあったことが報告されています。

 ドーピングが身体に及ぼす悪影響は、薬の副作用として過去に多くの事例があり、一九六〇年のローマ五輪では興奮剤により五輪初の死亡事故が発生し、また同時期にヘロイン過剰摂取による死亡事故もありました。

 オリンピックでのドーピング検査は六八年のメキシコ五輪で初めて実施され、今や国内においても国際大会や日本選手権大会等で検査が頻繁に実施されています。

 以前から、世界アンチドーピング機構(WADA)より、わが国におけるドーピング検査に対する対応の手ぬるさを指摘する声がありました。そこで日本アンチドーピング機構(JADA)は、日本体育協会と協議を重ねた結果、国民体育大会を「わが国最大のスポーツイベント」としてとらえ、昨年の静岡わかふじ国体から検査を導入することになりました。

 使用禁止物質リストを大きく分類すると、興奮剤、麻薬性鎮痛剤、蛋白(たんぱく)同化剤、利尿剤、ペプチドホルモンの五種類に分類されます。

 私たちの身近なところにも、このような物質が多く存在します。選手は日ごろから常備薬・サプリメント(補助食品)の会社名、服用日・容量等をメモしておくことや、大会出場にあたり禁止物質の例外的な「治療目的使用」の申請や、医事申告をしておくことが必要となります。

 ドーピング検査は単に違反者を発見することを目的とするだけでなく、「競技者の健康を守る」という観点からも実施されています。

 現在、薬物の被害はスポーツ選手のみならず一般社会でも、不法薬物の氾濫(はんらん)等が大きな問題となっています。県体育協会ではスポーツ科学委員会が中心となり、啓発と教育を指導者、選手を対象に実施しています。ドーピング検査の国体導入を機に、県民の皆さんにも薬物乱用の身体に及ぼす悪影響や恐ろしさを再認識する機会にしていただき、同時に、明るく公正なスポーツ活動の推進にご理解とご支援をいただければ幸いです。

(上毛新聞 2004年6月27日掲載)