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群馬アレルギーぜんそく研究所長 黒沢 元博さん(邑楽町篠塚)

【略歴】群大医学部卒。医学、薬学博士。米セントルイスのワシントン大内科学免疫アレルギー部門フェロー、弘前大と秋田大助教授などを歴任。アレルギーなど研究のAAAAI国際コミュティ日本代表メンバー。

アトピー性皮膚炎



◎病態は一様でなく多彩

 かゆみのある慢性の湿疹(しっしん)で、よくなったり、悪くなったりを繰り返すのがアトピー性皮膚炎である。かゆみのため、皮膚をかくと湿疹は悪化する。子供に多く、高齢者にはみられない。年齢によって、湿疹のできる場所が異なる。乳児では頭や顔に始まり、体や手足に広がる湿疹。幼児や小児では首や手足の関節屈曲部に多くみられ、乾燥性の湿疹。思春期および成人では上半身に強くなり、重症では顔を中心とした赤鬼様顔がんぼう貌となる。

 体の中の異常が原因で、それまで内因性湿疹と呼ばれていた慢性の湿疹が、アトピー性皮膚炎と命名されたのは一九三三年である。アトピー(atopy)という言葉は、ギリシャ語のatopos(場の外、変わったという意味)に由来する「奇妙な病気」という意味で、二三年にアメリカ人のコカが提唱した。

 アトピー性皮膚炎は、その病名からしても、アレルギー疾患であると誤解されやすい。しかし、病名の生いたちをみても、ぜんそくや花粉症・アレルギー性鼻炎のように、アレルギーによる病気であることの十分な証拠はいまだない。

 アトピー性皮膚炎の原因は、卵や牛乳などの食物であるとの考えもあるが、乳児でなければ厳しい食物制限の必要はない。食物除去では、アトピー性皮膚炎は治らない。アレルギーは、既存のアトピー性皮膚炎を憎悪する一つの原因と考えるのが妥当である。それでは、どうしてアトピー性皮膚炎は起こるのか。

 アトピー性皮膚炎の原因として最も重要なものは、かゆみである。アトピー性皮膚炎の発症には、“ドライスキン”という正常の皮膚とは異なる機能異常が存在する。分かりやすく言うと、アトピー性皮膚炎では、皮膚の防御機能が低下し、皮膚が過敏になり、刺激に対して反応しやすくなる。つまり、汗、衣服の摩擦、髪の毛の刺激、皮膚の乾燥が原因で、アレルギーがなくても皮膚炎が繰り返される。

 具体的には手指の湿疹、うなじの皮膚炎、食べこぼしによる皮膚炎、舌でなめまわすための皮膚炎などである。こうして、慢性の皮膚炎を繰り返すうちに、ハウスダストやダニに対するアレルギーが加わり、アトピー性皮膚炎がもっと憎悪化する。

 アトピー性皮膚炎の病態は多彩で、一様でない。治療にあたっては、かゆみをコントロールすることとスキンケアが二つの柱となる。従って、アレルギーだけが原因と考えて治療するのは、正しくない。抗アレルギー薬は上手に使いたい。スキンケアでは皮膚を清潔に保つことと、皮膚を乾燥から守ることが大切である。精神的ケアも重視されるべきである。アトピービジネスや民間療法など、アトピー性皮膚炎治療が“無政府”状態に陥っている現在こそ、アレルギー専門医による治療をお勧めする。

 第三回アレルギー・アトピー公開セミナー(入場無料)を七月四日午後二―四時に、大泉町文化むらで開催する。今回もアレルギー・アトピーに関する正しい情報を提供したい。

(上毛新聞 2004年6月30日掲載)