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中小企業診断士・行政書士 金子 眞行さん(館林市大島町)

【略歴】東京都生まれ。都立江戸川高卒。会社勤務後、商工会議所内にて企業支援業務。前橋にてコンサルティング会社設立に参画。行政書士、中小企業診断士、都立技術専門校講師。中小企業家同友会、LP21所属。

カウンセリングする心



◎まずは“想い”尊重して

 キャリア・コンサルタント養成講座に通い始めて三カ月になる。働く人の能力開発や生涯にわたる職業生活のプランニング支援を目的に、厚生労働省が養成しようとしているのが「キャリア・コンサルタント」だ。

 内容は経済・雇用環境や、労働者意識の変化から組織論・リーダーシップ論、発達心理学、カウンセリング理論・実習などにわたる。広範囲に及ぶために、いずれも概論の域を出ないが、このうちカウンセリングは相談者と接する上で最も重要な手法であると考えられる。カウンセリングでは、相談者の発言に耳を傾ける「傾聴」という技法を実習したが、ひたすら聴くことの難しさを実感している。

 講座では、学生や求職者が最初に行うべきことは「自己理解」だという。一体どんな職業に興味や適性があり、どんな生活をしたいと考えているのかを自分自身で理解することの重要性が繰り返し説かれる。これは、私が日常取り組んでいる中小企業の経営支援と共通の課題である。私が主にお手伝いさせていただいているのは、経営者自身の“想(おも)い”がストレートに反映される規模のオーナー企業であり、そこで最も重要な経営資源は人であると実感している。

 事業を円滑に運営するための第一歩としては、企業が、経営者が、そしてそこで働く人々が、どんな価値観で何を、どんな風にやりたいのかが重要だ。この理解に当たって必要なのが、クライアントの話をひたすら聴くことだ。われわれのような仕事では、何よりも弁が立ち、問題の解決策を朗々と経営者に説くことが大切だと考えられがちだ。もちろん、それをしなければならない場面はあるが、コンサルタント自身が極端に自説を開陳し、押し付けることを私は望ましいとは考えない。

 自身の職業生活や事業を考えるには、何よりも自分の夢や価値観が尊重されるべきだ。それを前提に、現実の環境を踏まえたアドバイスをするのが相談を受ける者の役割と考える。その過程で、時にきつい表現が必要な場合もあるが、「説教ではなく説得」の基本を踏み外したくない。

 経営環境が大きく変化する中、経営者と従業員の“想い”の方向性が一致することの重要性が増している。企業が生き抜くためには、顧客に接する従業員のサービスレベルの向上が必要であり、その前提としては、従業員自身の心の安定が欠かせない。

 サービス業のマーケティング理論では、従前からカスタマー・サティスファクション(CS=顧客満足)の実現には、エンプロイヤーズ・サティスファクション(ES=従業員満足)の重要性が指摘されている。この満足は、必ずしも金銭面での報酬に起因するものだけではない。「上司や同僚・部下から、不可欠な存在だと認められ感謝されたい」という労働者の意識に作用することの有効性に配慮したい。

 自社や、その顧客とともに成長しようとする従業員や経営者のお手伝いがしたい、と考えつつ今週末も前橋に通う。

(上毛新聞 2004年7月8日掲載)