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NPO法人「みらくる群馬」理事長 片山 哲さん(榛名町中室田)

【略歴】中国黒龍江省哈爾浜(ハルビン)市生まれ。国家公務員、米国企業勤務を経て(株)カタ・エンタープライズを設立。約30年間、33カ国でプロジェクト・マネジャーとして通信衛星地上局の建設に従事。榛名町に一粒社を設立。

国際化と異文化理解



◎摩擦なくし寛容と忍耐

 貿易、金融の拡大が国境を越えた人間の交流を促し、国際化という言葉がやかましくなって半世紀にもなろうか。ある国際政治学者は、国際化とは国家の壁を乗り越えて形成される複数国家間のシステムの形成ないし展開とする。この国家の枠を超えるところに異国民との接触があり、文化摩擦が生じる。

 ある文化人類学者は、文化摩擦の解消には異文化理解を、異文化理解には異国ないし異人種の生活様式や言語の学習を、と説く。諸国家(民族)の文物に精通し、マルチリングイスト(多言語理解者)になれば、摩擦は解消し国際人になれるのか。モスレム(回教徒)に関する知識、現地情勢の認識のいずれもなく、アラビア語は言わずもがな、中学生にも劣る英語力だけでイラクに入り、拘束された日本人は論外で、任地の事情、言語を事前に習得し、企業の手厚い庇ひ護ごの下での勤務にもかかわらず、海外生活に適応できなかった日本人ビジネスマンの事例は珍しくない。

 海外でのビジネスで、法制、あるいは商習慣の相違による軋轢(あつれき)はあるが、対人関係、すなわち外国人個々との接触による摩擦はより深刻である。異文化の理解といった理性的な判断と努力以前に、人間本来の感情面、つまり相手の形質、言動様式に対する好き嫌いの感覚、心地よさ、違和感といった、やっかいな問題が根強く横たわる。

 メラネシア人の農褐色の皮膚や獅子鼻、ポリネシア人の体臭等。是非を尋ねた時に縦でも横でもない首の振り方をするインド人。イラン人がやたらに発する「チェッ」という舌打ち。大きな洗面器に全員が手を突っ込んで食べるブータンの手食習慣等。これらに馴致(じゅんち)するにいかなる手段、どれほどの時間を要することか。

 異民族接触の問題では、往々にして二つの異なった国民または民族の接触の例が取り上げられる。例えば、日本企業の中国現地法人で総経理として働く日本人の場合、あるいはまた、フランス人がインドネシアに行って人類生態学を研究した場合等である。

 しかし、現実はそんなに単純ではない。米英軍のアフガニスタン空爆以来、一躍世界的に知られるようになったカタールの放送局「アルジャジーラ」の建設の場合、施主はカタール政府(新国王)、スタジオ建設を受け持ったのはソニー・ヨーロッパ、衛星通信部門はNECであったので、プロジェクトには日本人のほか、カタール人、パレスチナ人、イギリス人、エジプト人、インド人、フィリピン人が参加した。

 「一九九六年八月十五日までに完成し、引き渡すべし」というタイトなタイムスケジュールを消化すべく、昼間の外気温五〇度のもと、連日連夜、仕事や食事を共にする場合は、理性的に他国人の形質や文化にいちいち配慮し、冷静に言動することは至難というべきである。

 最も摩擦の少ないパラダイムを模索しながら、結局は寛容という脅威的な忍耐力に支えられた「強い、あるいは固い文化に鞘(さや)寄せされた局地的、時限的パターン」に落ち着かざるを得ないように思う。

(上毛新聞 2004年7月20日掲載)