視点 オピニオン21
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日本精密測器会長 清水 宏紀さん(高崎市下豊岡町)

【略歴】高崎高、群馬大工学部卒。1963年に日本ビクター入社、オーディオ事業部前橋工場長、常務取締役、専務取締役AVマルチメディアカンパニー社長などを歴任。タムラ製作所取締役。昨年6月から現職。

日本の生産技術力



◎熱い思い継承し発展を

 学校や企業の伝統は、単に長い歴史だけではできない。過去に素晴らしい実績を挙げたということでもない。伝統とは、その素晴らしい実績を作り上げた人たちの熱い思い、知恵と努力が継承され、今もその息吹が息づいてこそ、輝かしい伝統と呼ばれる。

 進みすぎた資本主義経済が、企業だけでなく学校経営にまで短期間で結果を出すことを迫るため、経営の理念が薄らぎ、人に対する思いも軽くなる。おのずから人も合理的になり、早く結論を出したがり、あきらめも早くなる。熱い人が少なくなり、学校や企業の輝かしい伝統も変形する。

 しかし、いかなる環境下においても企業や学校の思い、理念は経営の軸であり心棒である。また、その理念を実現するための人の熱い思い、努力こそが文化を築き、明日を拓ひらく原動力ではなかろうか。

 さて、エレクトロニクスによる映像、音響技術の進歩・発展は著しく、衛星や地上波デジタル放送が始まった。テレビも液晶やプラズマによって大画面・薄型になり、DVDレコーダーも人気になっている。この技術は通信やパソコン技術とも融合して、デジカメや携帯電話を生み出した。

 これらの技術は、日本が長年培った映像・音響技術が基礎となっているので、日本が再び世界をリードし、混迷していた産業界の復活に大きな役割を果たしている。そして、これらの技術を生み出し、製品化した源は、人々の熱い思いであり、それを実行した不断の努力である。

 大半の新開発商品は、開発が原理的に完了しても、量産して普及価格にするためには、別の大きなエネルギーが必要である。それは新しい開発を支える部品の開発、その加工技術であり、均質に大量に作る生産技術力である。世界のどの国と比べても、この部分の日本の強さは群を抜く。

 ピラミッドのように末広がりの部品専門メーカーが、大きな役割を果たす。開発技術者のほかに生産技術者の層が厚い。この生産技術者が高品質のものづくりと、普及価格につながる量産化への巨大な橋を造る。そして、優れた製造マンがさらに改良を加える。このような開発からものづくりまでのチームワークが、日本の産業界の特色であり、これが企業を強くしてきた。

 財務的視点のみで企業経営が行われると、リストラなどによって、このチームワークの素晴らしさが失われる。しっかりした理念があり、それを支える熱い思いの集団が企業を救う。

 母校の高崎高校で、スーパーサイエンススクール(SSH)の運営指導委員を依頼され、産業界を支える素晴らしい人たちを招いて、その体験や思いを生徒たちに聞いてもらっている。私も時々同席するが、その人たちが発信するエネルギーは生徒たちに感動を与え、新鮮な喜びとなっている。

 若い日々の感動は特に大きく深い。先人の熱い思いを継承し、さらに大きく発展させる新しい産業界のリーダーの誕生を期待したい。

(上毛新聞 2004年7月21日掲載)