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県立歴史博物館長 黒田 日出男さん(東京都練馬区)

【略歴】東京都生まれ。早稲田大卒、同大大学院修了。東京大史料編纂所教授、文学博士。第7回角川源義賞受賞。著書は『龍の棲む日本』(岩波新書)『謎解き 伴大納言絵巻』(小学館)など十数冊。

新発見考古速報展



◎発掘成果考える機会に

 県立歴史博物館では、今月十三日から第七十七回企画展「新発見考古速報展」を開催している。「発掘された日本列島2004 新発見考古速報」(八月十五日まで)と「群馬発掘情報」(八月三十一日まで)という二本立ての展示である。

 前者は文化庁の埋蔵文化財普及事業の一環であり、その十周年ということで「あの遺跡の今」という特集も組まれている。後者は県内のよりすぐりの発掘成果を展示している。いずれも、県内はもとより埼玉、栃木、新潟、長野といった隣県の考古学ファンにとっても、見逃すことのできない、とても充実した展示となっている。

 同館の一員として、私も早速見た。日本全国と県内の発掘成果の素晴らしさに、素人としては感嘆するしかなかった。が、しかし展示されているたくさんの発掘品を見詰めていると、なぜかふいに二〇〇〇年十一月五日のあの「旧石器捏ねつ造ぞう」発覚報道が脳裏に浮かんできたのだった。あれからもう三年半余になる。

 考古学は、あの決定的なダメージをいかに反省し、そこからどのように立ち直りつつあるのだろうか。あの事件をめぐっては、いろいろな本が出されているが、戸沢充則著『考古のこころ』(新泉社)などを読んだ際にも、考古学の根本的な反省とはどのようなものであるべきかという、私の抱いた疑問は依然として解消されなかった。つまり、この企画展を楽しみながら、衝撃的な「旧石器捏造」の意義を問うという複雑な体験を、私はしたのである。

 家に帰った私は、藤森栄一氏の本の幾つかを開いてみた。私は考古少年ではなかったし、考古学とは無縁だが、彼や直良信夫、森本六爾両氏などの生き方にひかれてきたからである。日本の考古学の草創期にあって、大学での専門的な訓練を受けなかったが、ひたむきに考古学などに精進し、それぞれ優れた成果を挙げた在野の人々の姿こそが、学問のあり方を反省する上での原点の一つであると思ったからである。

 さらに、高橋徹著『明石原人の発見 聞き書き直良信夫伝』(社会思想社)を読んでいると、問題の本質的な部分というのは、本人たちには自覚できない、ないしは無意識に排除している場合が多いのではないか、と思われてきた。自己批判というのは、真に困難なものだということを再確認したに過ぎないのだが。

 ともあれ、今回の展示されている発掘品のどれもが、すごい魅力を持っているし、本物である。土偶・人物埴はにわ輪や土器の文様などに興味を抱いている私としては、開催期間中に何度も見直したいと思っているところである。

 この企画展は、来られた方々に大いに満足していただけるものと確信しているが、ついでにお勧めしたい。これらの発掘の成果を味わいつつ、あの「旧石器捏造」事件について、日本の考古学はどのような反省をしたのであろうか、と考えてみることを。

(上毛新聞 2004年7月29日掲載)