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日本アマチュア野球連盟ジュニア強化部会委員 斎藤 章児さん(高崎市江木町)

【略歴】東京都生まれ。立教大卒。1967年4月から33年間、農大二高野球部で監督を務め、春2回、夏4回、甲子園に出場。2000年1月から03年シーズン終了まで、母校・立教大野球部で監督。

高校野球県大会



◎甲子園以上にドラマが

 初戦からシード校が早々に姿を消す波乱に富んだ全国高校野球選手権県大会も、終ってみれば、三季連続甲子園を狙う桐生第一が第一シード校の前橋工を延長戦で破り、頂上決戦を制した。

 決勝戦の翌日、福田監督のコメントの中に「優勝のヒント」が隠されているのを、若い指導者の参考になればと、私なりに勝手な解釈をしてみました。

 記者の甲子園に向けての質問に対し「打撃・走塁など、まだ向上の余地がある。レベルアップして…」とありましたが、ここでバントと守備の見直しを挙げていないのは、それなりに自信があると推測されます。

 実際に桐生第一と前橋工はバントと守備力については、正確さにおいて、他校より際立って優れていた。むしろ、バントと守りという野球の基本を忠実に実行していたチームが、決勝を争ったという見方もできます。

 監督はさらに「チームは人間を磨く場所で、規律正しくない選手はプレーに参加させない」と言っているが、この辺りは社会生活の基本的なことに妥協を許さず、信念を貫いた指導に徹している。

 大会中、選手たちに団結力を求め、全員坊主にさせたことも、それを物語っています。

 今年の桐生第一は、守りは堅く、少ないチャンスをバントでつなぎ、チーム一丸となって、粘り強く戦った「基本重視」のチームといえます。実戦では、基本プレーができていない野球は必ず負ける。実戦イコール基本ということを知っている野球は強い。

 ところで、今大会は終盤で一点を争う攻防があり、スクイズを決めて勝ったチームもあれば、スクイズをしないで負けたチームもあった。この場合、「スクイズをしなかった」というよりも「平然とスクイズを行える準備を怠ってきた」というべきか。また、スクイズを防いで勝ったチームと、防げないで負けていったチームもあった。

 負けたら明日はない高校野球では、負けない野球を心がけ、常に勝つための準備を怠ってはならないのです。

 かつて、私が勝てない時代に、そうだったように若い部長・監督は戦い済んで静寂と孤独の中で苦もんしたことでしょう。

 「なぜ負けたのか」「どこに問題があったのか」。さまざまな反省点があると思うが、大事なことはそれを後悔だけで終わらせず、原因を究明して新チームづくりに生かすことです。

 息つく間もなく新チームに着手していることと思いますが、早く立ち直って健闘してほしい。そして、高校野球の理念・理想を常に念頭に置き、部の運営、部員の指導には強い信念を持ってこれに当たり、試合においては勝利に執念を燃やしていただきたい。

 甲子園の心を求める球児たちの県大会には甲子園以上の感動があり、白球にかける青春の“真のドラマ”があると私は思っている。

 全国大会はきょう開幕するが、今年の県大会のドラマは終わった。桐生第一以外の球児たちは、来年の夏へ向けて、新チームとともに動き出している。

(上毛新聞 2004年8月7日掲載)