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群馬大学教授(地域共同研究センター) 須斎 嵩さん(足利市本城)

【略歴】足利市生まれ。早稲田大理工学部卒業後、1969年に三洋電機入社。大連三洋空調機公司董事長、環境システム研究所長などを経て、2002年4月から現職。中国ビジネス研究会世話人。

産学連携



◎大学が主体の役割担う

 うだるような暑さの六月十九日の京都国際会議所は、四千人を超える産官学連携推進会議の出席者の熱気であふれていた。特に大学、国の研究機関の意欲は目を見張るものがあり、その研究成果を所狭しと展示していた。

 わが国経済は、一九九〇年代まで世界のトップクラスであったゆえに、大学は経済、社会と遊離した存在でも是認されていたが、グローバル競争社会、ITやバイオ技術などの知識産業への転換、企業競争の激化により研究開発の自前主義からの脱皮など、「知の創造」の源である大学に大変な期待を寄せている。また、国立大学の法人化への移行時期と重なって、各大学は社会貢献を研究、教育に次ぐ第三の使命であると方針を位置づけたことで、産学連携が活発になったともいえる。

 大学の研究力が高まることは、企業の競争力の向上につながり、それがわが国の競争力の源になっていくことから、地域や産業界からの期待が高まっている。しかし、常に注意をしなければならないことは、産学連携が進めば「すぐに経済的に成り立つ」ということではなく、大学との連携を企業の経営戦略上の位置づけとすべきであると考えている。

 大学の「研究成果である知」は、技術開発のシーズ(種)を提供するとともに、既存の知識では問題の解決ができないときに解決策や解決の方向を示すことである。われわれが成熟化したと思うような技術の革新から、コストパーフォマンスを上げるための技術があり、新しい技術との混成や生産技術の革新によるプロセス・イノベーションなども重要である。

 産業界は、大学人の論理的な考えや先進的で専門の深い研究成果を取得して、企業の成長発展の手段として考えるべきである。また、大学人は企業から市場の見方、グローバルな事業展開、研究開発の手段、そして研究のスピード感を養って学生を指導し、「知」を継承させることである。五―十年先に、技術や製品の花を開かせる気持ちが大切であると考えている。

 わが国は、世界トップの技術先進国家として、技術を知的ノウハウとして確立して、国際的競争力に勝つための戦略が必要である。一般の中小企業では、財務力や企業知名度などの欠如から、優秀な研究者や技術者を採用することは極めて困難であり、また、海外へ進出するための人材や組織体制がないので、国際企業への転換にも課題が多い。このような課題を少しでも解決することが地方に存在する大学の使命であるとも考えている。

 大学が地域、民間、産業界の活性化のために、知の源泉の中心となり、事業や産業を興し、人と組織のコミュニケーションの融合を図る―など、大学がその主体の役割を担うことである。「桃李(とうり)言(ものい)わざれども、下自(したおのずか)ら蹊(こみち)を成す」。大学にそのような状況が形成されることを願望している。

 スイスに本拠を置き、欧州で最も権威のある経営幹部養成所、IMDが言明した「日本が老化を自覚して気力を失った中年の危機」から脱皮させるためにも、大学が社会に出ていくことで、その言葉を少しでも払しょくしなければならない。

(上毛新聞 2004年8月10日掲載)