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赤城村建設課長 星野 敬太郎さん(赤城村上三原田)

【略歴】勢多農高卒。赤城村役場に入り、教委社会教育係長、同課長などを歴任。現在は建設課長。上三原田の歌舞伎舞台操作伝承委員会の事務局として活躍。「赤城凧の会」の中心メンバーの一人。

素晴らしい出会い



◎自然の中で安らぎを

 昔、春スキーに出かけたときのことです。富山市を経由して立山駅まで車で行き、トロッコ電車に乗って美女平へ。バスに乗り換えて室堂に向かう間、車窓から見る山の風景は、ちまたでの煩わしい人間関係や仕事に追われた生活を忘れさせ、心身ともに安らぐ時間でした。室堂に立ち降りたら、らいちょう荘の案内人の方が笑顔で迎えてくれました。

 らいちょう荘へ向かう途中、素晴らしい光景に出会いました。雷鳥のつがいが四羽のひなを連れて日だまりで休んでいました。確か、十メートルくらい離れていたと思います。そばで見たい一心で近寄りますと危険を感じたのか、雌が私たちに向かって威嚇し、雄がひなを連れて逃げるように遠ざかっていきました。

 つい視線は、遠ざかるひなに注がれます。雌は私たちの気を引くために羽を広げたり、威嚇したりして気を引くのに懸命でした。はっと気が付き、背を向けて遠ざかったとたん、雌は逃げるひなの方へ一目散、母は強しです。

 一生に一度の素晴らしい出会いが、自分勝手な思いで雷鳥に迷惑をかけたことに反省しきりです。相手の立場を考え、相手の立場になって行動すべきでした。とかく自己中心的に考えがちですが、相手の立場を考えて行動すべきだと思いました。

 この春、同じような出来事に遭遇しました。住んでいる近くの舗装道路でキジと出会いました。カーブに差し掛かったときのことです。左は石垣、右はネットフェンスで、道路の中央でキジのつがいと、三匹のひなが逃げ場がなく右往左往していました。車を止めて見ていると、危険を感じたのか、雄は飛び立ちましたが、雌はひなと一緒に道路から離れようと懸命のようでした。しばらくしたらフェンスの切れ目を見つけ、杉山への脱出に成功しました。子育て中の母は、やはり強しです。

 元に話を戻します。らいちょう荘に着いたときのことです。「お疲れさん、のどが乾いたでしょう」と、温かいコーヒーを振る舞ってくれました。二十キロ以上の荷物(スキー用具)を担ぎ、疲れ果てたときのホットコーヒーが今でも忘れられません。山荘の方の笑顔でのもてなしに感謝しています。山荘に宿泊した次の日、春スキーです。早朝、外に出て空を見上げると、真っ青な空を見ました。冬の澄み切った、群馬で見る空の青さとは違います。

 意気揚々とスキー支度をし、雷鳥沢を滑降、剣御前まで登坂して一休み。左眼上の剣岳を見ながら、スプーンカットの雪面の剣沢滑降は、最高の思い出になりました。剣沢滑降で出会った見知らぬ人からいただいたチョコレートの味は今でも忘れられず、山に行くときは必ず持っていきます。

 心身をリフレッシュする意味で、暇を見つけ自然界へ飛び込んでみたらいかがでしょう。素晴らしい出会い、体験ができ、心の安らぎを覚えることができると思います。

(上毛新聞 2004年8月13日掲載)